かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

佐伯清監督『浅草四人姉妹』(1952年)を見る。

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9月3日、月曜日。雨。


シネマヴェーラ渋谷」(「ユーロスペース」と同じビルの4F)で、新東宝映画の特集をやっている。時間があればもっといろいろ見たいけれど、自分の都合とあわせるとなかなかむずかしい。とにかく、行けるときに行っておこうと、雨のなか渋谷へ向かう。


40分ほど時間があったので、途中の喫茶店へ寄って、吉田裕著『日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)のつづきを読む。



電子書籍にくらべて、紙の本は、わたしの場合老眼鏡がいるので、なかなかすすまない。併読していると電子書籍ばかり先にすすんでしまう。感想は、もうすこし読みすすんでから日記に書こう。



11時から、「シネマヴェーラ渋谷」で、佐伯清監督の『浅草四人姉妹』を見る。1952(昭和27)年の作品。

監督:佐伯清
脚本:井手俊郎、橋村美保

出演
相馬千恵子
関千恵子
杉葉子
岩崎加根子
三島雅夫
沢村貞子
高島忠夫
井上大助
飯田蝶子
二本柳
山村聰


知っている俳優もおおい。


相馬千恵子は、むかし毛利正樹監督『四谷怪談』で(1956年、ちいさいころ見たので怖かった)、お岩さんの役をやっていた美人女優。ちなみに民谷伊右衛門役は、若山富三郎。『浅草四人姉妹』では、四人姉妹の長女で、主役。気の強い女医さんを演じている。


杉葉子は、代表的な映画は、今井正監督『青い山脈』(1949年)。女学生の寺沢新子を演じていた。このときの共演は、男の学生が池部良で、女の先生が、原節子。『青い山脈』は、なんども映画化されているが、もっとも古く、作品の出来もいちばんいい。『浅草四人姉妹』の杉葉子は、『青い山脈』の女学生がおとなになったような感じで、チャキチャキした三女を演じている。


三島雅夫は、小学生のころ見た東映時代劇の悪役がわたしの記憶にある。悪い商人をよく演じていた。しかし、その後見た小津安二郎監督『晩春』(1949年)で演じた主演・笠智衆の友人役も印象深い。『浅草四人姉妹』では、やさしいお父さんを演じている。


沢村貞子は、脇役ではよく知られた女優で、どれと特定できなくても、いろいろな映画で顔を見ていた。とくに記憶にあるのは、小津安二郎監督『お早よう』(1959年)、と成瀬巳喜男監督『女が階段を上る時』(1960年)。『浅草四人姉妹』では、しっかりもののお母さんを演じている。


高島忠夫は、このころのスター俳優か。ただ、わたしは特に印象にある作品が思い浮かばない。


飯田蝶子は、戦前の小津安二郎作品『一人息子』(1936年、小津のトーキー第1作)では、主役をつとめている。その後、戦後第1作目になる小津安二郎作品『長屋紳士録』にも出演している。むかしの映画にはおもに脇役でよく出ていた。そういえば、相馬千恵子がお岩さんをやった『四谷怪談』では、伊右衛門に毒薬をわたす悪役(伊右衛門の母)を演じていた。


二本柳寛は、やっぱり子どものころ見た時代劇の悪役の記憶が強い。でも、小津安二郎監督の『麦秋』(1951年)では、原節子と結婚する子持ちのお医者さんを演じていて、いまはこの作品のほうがわたしの印象に残っている。


山村聡は、これとあげられないくらいさまざまな映画で主演・脇役を演じている。個人的には、小津安二郎作品『東京物語』(1953年)で演じた、笠智衆東山千栄子夫婦の長男役、成瀬巳喜男作品『山の音』(1954年)で演じた、原節子の義父役などが印象に強い。


と、小さいときや若いときに見た懐かしい俳優たちにあれこれ思いを馳せながら見る。戦後まもない浅草界隈、隅田川などが映るのもうれしい。


「民主主義」という言葉が日常会話にときどき飛び出すのもおもしろい。民主主義で女性が強くなった、というのをコメディにしたような作品で、長女の相馬千恵子、三女の杉葉子などは、戦前には登場しないずけずけ男性にもの申す女性。もちろん、すこし類型的ではあるけれど、コメディであり、時代にまだそういうモデルになる女性が少なかったかもしれないとおもえばしかたがない。


女医さんを演じる相馬千恵子は、白いブラウス姿で登場する。男に負けないものいい、といい、その美貌も含めて『青い山脈』の女先生、原節子に似ている。民主主義から誕生した新しい女の代表的なイメージなのかもしれない。


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颯爽と街を歩く相馬千恵子。



映画館を出ると小雨。困った時の『磯丸水産』へ寄り、電子書籍で『天切り松 闇ものがたり』3巻を読み終える。