12月1日、土曜日。わたしたちシルバー世代には関係ないけど、映画を安く見られる日だ。
きのう、息子からも「クイーンの映画よかったね。明日クラプトンの映画を見にいくよ」っていう電話がある。見る映画館が同じなら合流しようと聞いてみたら、他の用もあって別の映画館だったので、いっしょに見ることにはならなかった。
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池袋で妻と待ちあわせて、渋谷の「シネクイント」へ、『エリック・クラプトン 12小節の人生』を見にいく。
「ギターの神様」とも称されるエリック・クラプトンの激動の人生を追った音楽ドキュメンタリー。関係者インタビューを極力入れず、ヤードバーズ、クリームなどのバンド期、そしてソロ活動の未発表映像を中心にした映像群のほか、私的な日記、手書きの手紙、デッサンなどを貴重な資料をひも解き、本人によるナレーションでクラプトンの人生を描いていく。
さらにジョージ・ハリスン、ジミ・ヘンドリックス、B・B・キング、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ、ボブ・ディランなどの貴重なアーカイブ映像も盛り込み、クラプトンと彼を取り巻く人びとからその時代が切り取られる。
(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/89321/
公開が決定する前から楽しみにしていた映画。エリック・クラプトン自身、少し自分のことを赤裸々に語り過ぎて恥ずかしかった、というようなことを試写会を見た感想でいっていた。
エリック・クラプトンには詳細に自分自身を語った自伝(映画以上に、詳細な事実を語っている)があるので、それ以上の情報はないが、映像と音楽で、エリック・クラプトンの音楽的変化や、ドラッグ、酒、女性関係が語られていくと、本にはない迫力がある。
母とイギリスに駐留していたカナダ兵とのあいだに生まれた、エリック。日本では、戦後、駐屯していたアメリカ兵と日本女性とのあいだに生まれた子供も多かったので、それを連想すると状況が想像しやすい。カナダ兵と母は、結婚せず、母は別の男性と結婚するので、エリックは祖父母に育てられる。
幼少期、母を失った心の陰りがエリックを孤独な少年に育て、やがては魂の呻きを表現するブルース・ミュージックに導いていく。
はじめにはいったヤードバーズが、音楽的に、ブルースからポップ路線に切り替え、大ヒット曲を出したことで、エリックはこのバンドをあっさり辞めてしまう。
このころのエリックは、ギターひと筋、修行僧のように自分にもバンドにも、厳しい。
次に、白人ブルースの父ともいえるジョン・メイオール率いるブルースブレイカーズに参加。この時代に、ギタリスト、エリック・クラプトンはすばらしい演奏を残している。アルバム『Blues Breakers with Eric Clapton』は、いまもわたしの愛聴盤の1枚である。若き日の、エリックのギターが圧巻で、誰からともなく「Eric is God」といわれるようになったのはこのころ。カミソリのように鋭いエリック・クラプトンのギターを堪能できる。

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そのブルースブレイカーズもアルバム1枚出して、脱退。伝説のバンド、クリームを結成。高度なテクニックを駆使し、即興演奏を得意とするはじめてのハード・ロック・バンド。ギター、ベース、ドラムスだけで、奔放なプレイを展開して、数年の活動にもかかわらず、一気に伝説的なバンドとなる。

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クリームは、ベースのジャック・ブルースとドラムスのジンジャー・ベイカーの仲が悪く、まもなく解散。ハード・ロック・バンドはしばらく空席ができてしまう。それを本格的に埋めることになるのが、のちに登場するレッド・ツェッペリンだが、それはまた別のものがたりになってしまう。
エリックは、その後スティーヴ・ウィンウッドと組んでブラインド・フェイスを結成。フロントをスティーヴ・ウィンウッドに譲り、後ろで静かにギターを弾くエリックの姿が、クリームからのファンにはさびしい。
あとから聴くとブラインド・フェイスはすばらしいバンドだったが、クリームの後継を求める当時のファンには届かず、まもなく解散。

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その後、「レイラ」が収録された名盤『デレク&ドミノス』が誕生して、エリックは、音楽的に順調なようにおもえるが、このころからドラッグやアルコールの問題がついてまわるようになる。

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素直に自分以上のギタリストとして賞賛するジミ・ヘンドリックスは、同志のような存在だった。そのジミ・ヘンドリックスの死に、エリックは号泣する。そして、ジョージ・ハリスン夫人、パティ・ボイドへの片想いも、エリックを苦しめる。
しばらくして、パティはジョージからエリックのもとへ走るが、すでにエリックは深刻なアルコール依存症に陥っていて、パティ・ボイドもそれにまきこまれる。エリックとパティの地獄のような結婚生活は、むしろパティ・ボイド自伝に詳しい記載がある。

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1974年にエリック・クラプトンは初来日した。そのときの酔っ払ったエリックの姿はいまでも記憶している。妙にはしゃいでいる。黙々とギターを弾くイメージとはちがっていた。観客のひとりが靴をステージに投げた。わたしの席からはその靴が男性ものか女性ものかわからない。でも、その靴を両手でかかえてふざける姿は、異様な感じがした。
とはいえ、エリックは十分かっこよかった。エリックが、エレクトリック・ギターで鋭いフレーズを弾きはじめると、日本武道館の観客は騒然となった。
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映画で見られるエリック・クラプトンの音楽の変遷はここまで。長いそれからのソロの歩みは、区切りがつけにくいのかもしれない。それがものたりなくもある。
ここからはパティとの別れ、息子の死、あらたな結婚と娘たちの誕生。
苦しみを刻んでブルースを演奏してきたエリックに平穏な日常がおとずれる。
アルコール依存症を克服。みずから、アルコール依存症患者の社会復帰を手助けする施設を設立し、定期的にチャリティ・コンサートをひらき、資金援助をする現在に近いエリック・クラプトンの姿が描かれる。
最初のほうで、ブルース・シンガー、マディ・ウォーターズが、「白人のブルースはにせものだ。おれのようには歌えない」と、いうような否定的な発言をする。
映画の最後、B.B.キングは、「エリックたちのおかげで、いまのわれわれがある」というような感謝のコトバをエリックに投げる。どちらも、エリックが尊敬してやまない伝説的な黒人ブルース・マンだ。
エリックが登場した60年代と、現在までのあいだに、それだけ黒人ブルース・マンが見る白人ブルース・マンへの評価が変わったことを象徴している。この功績の最先端にいるのが、エリック・クラプトンやローリング・ストーンズではないか、とわたしはおもっている。彼らは、音楽を通して、やすやすと人種の壁を乗り越えていった。
こう文章で書いても伝わりにくいことが、映画だからこそわかりやすく、その歩みを見ていくことができる。長々書いたけれど、わたしはエリックの音楽を聴き、彼の映像を見ているだけで、幸せな135分だった。
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帰り、渋谷センター街の「天狗酒場」というところへ寄って、ホッピーと日替わりランチを食べて、川越へ帰る。