3月13日、水曜日。
午前「イオンシネマ板橋」で、クリント・イーストウッド監督の『運び屋』を見る(これはまた別に感想をアップします)。
ラーメン『花月』で、ホッピーとラーメンでお昼。いったんアパートへ帰って睡眠補給。
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夜は、午後7時から、渋谷のオーチャード・ホールでブライアン・フェリーのコンサート。
午後4時半ころアパートを出て渋谷へ向かう。オチャード・ホールでは、これまでリンゴ・スター&オールスター・バンドとボブ・ディランを見ている。大きすぎず、コンサートを見るには最適な会場だ。着いたらもう入場を開始していたので、そのままはいる。
きょうは3階席。来日情報を知ったのが遅かったので申し込みが遅れてしまった。小さな双眼鏡を持参。拡大率はそれほどでもないが、軽いのが取り柄。
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午後7時、開演時間ぴったりにスタート。
意外だったのは、観客の層。フェリーのダンディな外観と甘い歌声を考えると、客層は、年代はともかくとして、女性が6、7割では、って予想していたけれど、わたしの3階席の周辺は男性ばかり。なかに、窮屈そうに女性がすわっている、って感じ。フェリーやロキシーのファンって、こんなに男性が多かったのか?
ブライアン・フェリーは、以前見たときの印象では、まるで園遊会にでも出るような完璧な正装で登場(笑)。しかしライヴがはじまると、まず上着を脱ぎ、次にネクタイがはずされ、やがてワイシャツの胸がはだけ、腕まくりがはじまり、最後はワイシャツがズボンから大きくはみだして、整っていた髪はクシャクシャ。
「ダンディズム崩壊」をステージで意図的に演じているような、そんな記憶が残っている。甘美な音楽が次第にどこかで歪んでいくような、あやうさを含んだ彼の音楽と似ていなくもない。
でも、今回の出で立ちはちがう。いきなり出てきたときからシャツの胸はボタン3つくらいはずされ、ラフそのもの。上着もシンプルなスーツ、という印象。つまり飾りの要素が少ない(最後まで上着を脱がなかった)。
オープニングは、名作アルバム『アヴァロン』のなかから「The Main Thing」。
この日『アヴァロン』からは、さらに『More Than This』とタイトル・ナンバー『Avalon』の3曲が演奏される。どれも、アルバムの顔のようなナンバーなのでなっとく。
それと、演奏された曲の多いのは、ソロ・アルバムの傑作『ボーイズ・アンド・ガールズ』。
『Slave To Love』、『Don't Stop the Dance』、『A Waste Land』、『Windswept』の4曲。
このロキシー名義の『アヴァロン』(1982年)から、ソロ名義の『ボーイズ・アンド・ガールズ』(1985年)あたりは、フェリーが甘美路線へ走ったピークのころで、わたしが繰り返し聴いた時代。自分でも、ずいぶん軟弱な音楽が好きになったな、って自嘲しながら(笑)。
でも、やっぱりこうして生で聴くと気持ちが静かに高揚していく。掠れ声でささやくようなフェリーの歌声と甘いサウンドの心地よさ。
しかし、このコンサートでもっとも感激したのは、ロキシー・ミュージックのデビュー・アルバム『ロキシー・ミュージック』から、「Ladytron」、「If There Is Something」、「Re-Make/Re-Model」と3曲が演奏されたこと。
明らかに、いまのフェリーの雰囲気とちがう。バンドのサウンドも、いきなり攻撃的になってくる。
しかし、観客は、それを受けいれていた。
「おおっ!」というようなざわめきと、大きな拍手が鳴る。
ブライアン・フェリーやブライアン・イーノ(キーボード)が、ロキシー・ミュージックとして登場した「無国籍ロック」のおもしろさ、それがステージで再現される。
ロック・バンドやミュージシャンには、たいていルーツがあるけれど、デビュー・アルバム『ロキシー・ミュージック』には、ルーツらしいルーツがわからなかった。ただただ奇妙なサウンドが鳴り響く、ふしぎなアルバムだった。それをいま目の前で体験している。
バンドの演奏も、お行儀のよさから解放されたように、ふしぎな楽器の音を鳴り響かせる。
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わたしは、最近ブライアン・フェリーやロキシー・ミュージックをベストもので聴くことが多かったので、どの曲がどのアルバムにはいっていたかわからないものもあって、ネットで確認しました。
ひじょうに多数のアルバムから選曲されていることを以下のセットリストで見てください。
「フェリー」はソロ名義で、「ロキシー」は、ロキシー・ミュージックの名義で発表されたものです。
[2019年3月13日のセットリスト]
- The Main Thing(ロキシー『Avalon』1982年)
- Slave To Love(フェリー『Boys and Girls』1985年)
- Don't Stop the Dance(フェリー『Boys and Girls』1985年)
- Ladytron(ロキシー『Roxy Music』1972年)
- Out of the Blue(ロキシー『Country Life』1974年)
- Oh Yeah(ロキシー『Fresh +Blood』1980年)
- Tokyo Joe(フェリー『In Your Mind』1977年)
- A Waste Land(フェリー『Boys and Girls』1985年)
- Windswept(フェリー『Boys and Girls』1985年)
- Bête Noire(フェリー『ベイトノワール』1999年)
- Zamba(フェリー『ベイトノワール』1999年)
- Stronger Through the Years(ロキシー『Manifesto』1979年)
- Don't Think Twice, It's All Right(フェリー『Frantic』2002年。ボブ・ディラン・カバー。)
- My Only Love(ロキシー『Fresh +Blood』1980年)
- In Every Dream Home a Heartache(ロキシー『For Your Pleasure』1973年)
- If There Is Something(ロキシー『Roxy Music』1972年)
- More Than This(ロキシー『Avalon』1982年)
- Avalon(ロキシー『Avalon』1982年)
- Love Is the Drug(ロキシー『Siren』1975年)
- Re-Make/Re-Model(ロキシー『Roxy Music』1972年)
- Editions of You((ロキシー『For Your Pleasure』1973年)
- Jealous Guy(ロキシー。1981年シングル。ジョン・レノン・カバー)
- Let's Stick Together(フェリー『Let's Stick Together』1976年)
コンサートは、1時間30分。一気に演奏が続き、アンコールはなしで終わりました。
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午前中に見た映画『運び屋』では、主演のクリント・イーストウッドにすごい年輪というようなものを感じましたが、ブライアン・フェリーが1972年から現在までたどってきた音楽の年輪にも、やっぱり若いミュージシャンでは出せない年月の奥ゆきのようなものが感じられました。
その足跡が、1時間30分のコンサートに凝縮されて演奏される。すごく贅沢感をいだくコンサートでした。
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Roxy Music - Avalon
甘美路線を定着させた名作「アヴァロン」。映像の美しさも見ものです。
Roxy Music - Remake Remodel
初期ロキシー・ミュージックを代表する1曲。「トトトト」ってニワトリを追うような語感がおもしろい。そしてブライアン・イーノ(キーボード)は、黒いトリの羽をつけて、なんだかトリのような顔をしている(笑)。
上記のように、ぜんぜんちがうブライアン・フェリーを、一挙に体験できました。