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12月31日には、長男が妻と4歳児を連れて泊まりにきた。
長男もわたしもテレビを見ないほうなので、無音で静かにお酒を飲みながら近況を話す。
「山本太郎の街頭記者会見を見た?」
と聞くと、「Youtubeで見たよ」という。
「すごいひとが出てきたね」というと、黙ってうなずいていた。
映画『イエスタディ』の話になる。長男も、おもしろかった、という。ジョンの登場もよろこんでいた。わたしのパンフレットを貸してくれ、というので「いいよ」といった。
妻が「寅さん見てきたよ」というと、息子は「明日(元旦)の午後から見にいく」という。「映画の日だから安いんだ」。
長男の妻は、寅さんに興味がないので、ひとりでいくようだ。『イエスタディ』のときは、ふたりで行ったので、赤ん坊は、わたしの妻がそのあいだ子守をしていたが。
赤ん坊が寝ているので音楽をかけられない。
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1月1日、お昼頃、長男家族帰る。
やっと音楽をかけながら、ソファへ寝ころがって本を読める。妻も疲れて、べつの部屋へ寝にいく。
吉田修一の『続・横道世之助』を電子書籍で再読。以前は紙の本で読んだが、電子書籍があったので、ダウンロード。
わたしは、世之助のようなひとを、実際にひとり知っている。
むかし本屋さんにいたころアルバイトにきたフジタ君という学生で、呑気というか人好きのするひとで、彼のもとにはいろいろな学生が集まってくる。そして彼がエリック・クラプトンのファンだったので、集まってくる学生たちがみんなクラプトンを聴くようになった(笑)。
わたしもクラプトンのファンだったので、気があった。彼もお酒が好きなので、本屋を閉店してからあちこち飲みにいった。ふたりのときもあるけれど、たいていは4人か5人でたむろして飲みにいった。わたしは貧乏だったので、みんなでワリカンで飲んだ。誰かのアパートへ泊まると、そのころ出たエリック・クラプトンの『ライブ・アット・武道館』、というライブ・アルバムをBGMにかけた。
ジャスト・ワン・ナイト~エリック・クラプトン・ライブ・アット武道館(紙ジャケット仕様)
- アーティスト:エリック・クラプトン
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2016/03/23
- メディア: CD
大学を卒業してからも、フジタ君はエリック・クラプトンが来日すると、山口県から東京へやってきた。そして、そのころのメンバーが集まってクラプトンを見、宴会をする。
見てから宴会だと時間がなくなるので、はじまる前にも飲む。わたしは、彼らと飲んでコンサートへいくとトイレが近くなって困るので、コンサートは別の日にいって、飲み会だけ参加したりした。
そういう集まりがいまも、40年以上続いている。それを継続させているのは、やっぱりフジタ君のひとの良さ。彼のいるところ、笑いがたえないのだ。
彼は60歳を過ぎて公務員をやめて、山口県の市会議員に立候補した。わたしは、お酒を飲んでいのたので「なんだ、安倍晋三の手下になるんだ?」と意地悪く反対したが、彼は黙って笑っていた。
結局、彼は落選した。
「東京で残念会をやります」というメールをもらったので、その日いってみたけど、彼には落選の陰りなどまるでなく、みんなで笑いながら3時間を過ごした。
わたしが「吉田修一って作家知っている?」
といったら「知らない」というので、
「タカシ君(彼の下の名前)の大学の後輩だよ。吉田修一の書く『横道世之助』の主人公が、タカシ君に、にているんだ。読んでみて」といってみたが、その後彼から読んだという話はない。忘れているのだとおもう。
元旦に『続・横道世之助』を読みながら、フジタ君のことを思い出して、年賀状代わりのメールを送った。