いま、近隣の映画館ではあまり見たいものをやっていない。ほんとうは、都心のミニシアター系の映画館まで足を運べばいいのだけど、新型コロナウィルスを考えると、出かけにくい。
それで、このところもっぱらレンタルDVDで映画を見ている。お酒を飲みながらなので、とうてい映画館で見るような集中力はないけど、とりあえずしかたがない。
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先日、のんちさんのブログがきっかけで、原作・藤井哲夫、マンガ・かわぐちかいじで『僕はビートルズ』(2010〜2012年、講談社のマンガ雑誌『モーニング』に連載、わたしが読んだのは単行本10巻セット)を読んだ。おもしろくて、一気に読んでしまった。
日本のビートルズ・トリュビュート・バンド「ファブ・フォー」が、2010年から1961年へタイムスリップして、まだ世に出ないビートルズの役割を一歩早く先どりしてしまう、という話・・・。
そうなると、本家ビートルズはいったいどうなるのか? 「ファブ・フォー」に先どりされたビートルズは歴史のなかに埋もれてしまうのか。
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日本を基盤に「ファブ・フォー」が旋風を起こしているころ、本家ビートルズは、何をしていたのか?
それに答えるように、デビュー前のビートルズ(1960〜1962年)を描いているのが、イアン・ソフトリー監督の映画『バックビート』(1994年、公開)。
なんどか見ている映画だけど、マンガを読んだら見たくなった。Amazonを検索してみると、1000円以下の廉価版で売っていたので、さっそく注文。ひさしぶりに見る。
1960年のころ、ビートルズのメンバーは5人だった。
ジョン・レノン(ギター)
ポール・マッカートニー(ギター)
ジョージ・ハリスン(ギター)
スチュアート・サトクリフ(ベース)
ピート・ベスト(ドラムス)
ドイツの歓楽街ハンブルグで、船員などの労働者が主だった客の店で、裸を見せる女の子たちの幕間(まくあい)に、ビートルズは出演していた。客のめあては、女の子だった。
ビートルズの楽屋兼宿泊所は、トイレに近い狭い部屋。いつもトイレの臭いがしていた。
ビートルズの出演時間は長く、彼らはクタクタになるまで演奏を続けた。だから、演奏中に食べものをかじり、酒やタバコを口にし、眠気を覚醒させるクスリを飲んでいた、ともいう。
ビートルズのハンブルグ時代に大きな変化を起こすのは、美術学校の学生だったクラウス・フォーアマン。
クラウスは、恋人と喧嘩して、そのうっせきを晴らしに歓楽街を歩いていた。そのとき、妙に心をそそる騒音に惹かれて、その音がする店へはいる。
ステージでは、彼と同世代の若者5人が、野生動物のような激しい動きをしながら荒々しい音楽を演奏していた。
彼らは、ステージで飛び跳ねたり、寝ころんだり、あげく、毒舌を浴びせて、客を挑発していたりしていた。
クラウスは、彼らのステージに言葉にできない感銘を受け、喧嘩していたことも忘れていた。翌日も、恋人のアストリッド・キルヒヘアを同行して、ビートルズを見にやってくる。
映画『バックビート』は、このアストリッド・キルヒヘアとビートルズの当時のベーシストだったスチュアート・サトクリフの恋愛を物語の中心に置きながら、若き日のビートルズを描いた映画。
スチュアートとアストリットの恋愛は事実にもとづいたもの。
アストリットは、写真を勉強していて、若き日のビートルズを撮った貴重な写真を残している。彼女は、当時クラウスと恋人関係にあったが、ビートルズのベーシスト・スチュアート・サトクリフに強く惹かれていく。
またビートルズの初期のシンボルであるマッシュルームカットは、彼女がクラウス・フォーアマンにしていたもの。アストリットは、スチュアートもマッシュルーム・カットにしてみせる。それを見たジョージ・ハリスンが「ぼくもスチューのようにして」と、アストリットに頼む。
最初スチューやジョージのヘア・スタイルを見て、「おまえらオカマか」と笑いころげていたジョンやポールも、まもなく新しいカットに替えていく。そんな些細なことにも、メンバーが好む感性は似ていた。
最後までリーゼントのままでマッシュルーム・カットにしなかったのは、ドラムスのピート・ベストひとり。どこか、他の4人となじんでいなかった、という。
実際のスチュアートとアストリッド。
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映画のなかのジョンは、いつも苛立っている。
じつはジョンも、親友・スチュアートの恋人・アストリッドに惹かれていた。しかし、ジョンは、それを素直にことばや態度で表現できず、アストリッドに何かとつっかかる。
あるとき、アストリッドがジョンにいう。
「どうしたら、そんなイヤなやつになれるの?」
「練習してるのさ」と、ジョンがいう。
このセリフのやりとり、いかにもジョン・レノンがいいそうで、笑ってしまった。
ジョン役を演じたイアン・ハートは、顔はどちらかというと、ジョンの最初の子供、ジュリアン・レノンににているのに、映画を見ているとジョン・レノンに見えてくる。
怒りや焦りをからだじゅうで発散させている若き日のジョンを、イアン・ハートがすばらしく演じている。
スチュアート・サトクリフは、音楽ではなく、すでに才能をあらわしていた絵画を勉強することを選び、イギリスへ帰るビートルズと別れ、恋人・アストリットとドイツに残る。
スチュアートの代わりにポール・マッカートニーがベースを担当。
そして、ドラムを、ピード・ベストから、まだロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズのメンバーだったリンゴ・スターに交代する。
1962年、現在見るビートルズができあがる。
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劇中の音楽も、すばらしい。
90年代のバリバリ現役のロック・バンドが特別に編成され、激しいロックンロール・バンドだった若き日のビートルズ・サウンドを、再現している。
ビートルズは、あの時代のパンク・バンドだった、とわたしがおもう気持ちを少しわかってもらえるのではないか、とおもう。
映画のために編成されたメンバーをあげます。
デイヴ・パーナー Dave Pirner(ソウル・アサイラム)、ボーカル
グレッグ・デュリ Greg Dulli(アフガン・ウィッグス)、ボーカル
サーストン・ムーア Thurston Moore(ソニック・ユース)、ギター
ドン・フレミング Don Fleming(ガムボール)、ギター
マイク・ミルズ Mike Mills(R.E.M.)、ベース
デイヴ・グロール Dave Grohl(ニルヴァーナ/フー・ファイターズ)、ドラム
「ウィキペディア」より
このなかのデイヴ・グロール(ニルヴァーナ/フー・ファイターズ)は、いまもポール・マッカートニーと親しい交流をもっている。いくつかのイベントで、ドラムを担当し、ポールとの共演を果たしている。
ひさしぶりに見たけれど、若き日のビートルズを描いた映画『バックビート』は、おもしろかった。