阿佐谷にある、新人マンガ家・村岡栄(22歳)が住む木造の3畳アパート。もちろんお風呂はないし、トイレは共同。
この3畳アパートに、詩人、小説家、画家、ミュージシャン志望の若者たちが同居する。
彼らは、夢ばかり大きくて、お金も将来の展望も、ない。貧しいことははずかしいことではないけれど、いつも腹をすかせて、シケモク(吸いかけのタバコ)をわけあって吸うような暮らし。
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永島慎二のマンガ『若者たち』を、Kindleでひさしぶりに読み返す。
わたしが東京ではじめて借りたアパートは3畳だったし、3畳アパートで女子学生と同棲していた知人もいた。
1960年代の後半〜1970年代前半には、それほどめずらしい風景ではなかったかもしれない。
青春=貧乏、だとおもっていた。
永島慎二の『若者たち』には、そんなわたしたちの頭でっかちな想いが描かれている。
60年代は、みんながそれぞれの夢を追う時代だった。目的はちがっても、それに向かう姿勢は似ていた。
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時代が1970年にかかるとき、3畳アパートの借主・村岡栄は、共同生活の解散を同居人たちに告げる。
つまり70年代ってのは一人一人が個人で闘う時代だって気がするんだなあ・・・
村岡は、もらったばかりの原稿料を提供して、同居人とのお別れパーティをひらく。
みんな記憶を失うほど、ベロベロに酔った。
翌朝、酔い潰れた村岡が目を覚ますと、アパートには誰もいない。彼は、2階の窓をあけて酒臭い部屋に、外の新鮮な空気をいれる。
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この芸術家の卵たちは、1970年代をどう生きのびていくのだろう、と、わたしはよくおもったものだ。
そういうある時代の空気が永島慎二のマンガには詰まっている。
しばしノスタルジーにひたった。