もうずいぶん前に見たような気がしている。細部の記憶もあやしくなっている。でも、繊細で見ていて心地よく満足して帰ったことは憶えている。
10月20日(水)。
「シネリーブル池袋」へ、今泉力哉監督の『かそけきサンカヨウ』を見にいく。
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母が家を出て、高校生の陽(志田彩良)は、父の直(井浦新)とふたりで暮らしている。陽は、家事なども引き受け、父との生活にまあまあ満足している。
ところがその父が、恋人ができて結婚したいという。
まもなく義母になる女性と4歳の娘が新しい家族として、陽の家にやってきた。しかし、急な生活の変化を、陽は受け入れることができない。
陽は、複雑な家庭事情の困惑を、男友達の陸(鈴鹿央士)に、話したりする。
基本的なスジはそのくらいだけれど、とても慎ましく繊細な映画でよかった。今泉力哉監督は、その前に公開された『街の上で』に、わたしはノックアウトされたが、この映画も期待を裏切られなかった。
場面場面がゆったりと慎ましく、気品がある。
陽と陸は高校の同級生で、互いを異性として意識しているが、「友達以上、恋人未満」の関係をそう簡単にはみだせない。
以前見た、ウエダアツシ監督の『うみべの女の子』は、セックスすることを日常にしている中学生を描いていて、ちょっとめんくらったが、高校生の陽と陸は、そこへいくまでに、まだまだ長い手続きがかかりそうだ(笑)。
そういうはがゆいようなまぶしいような陽と陸の関係が美しく感じられた。
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再婚した父が、陽に「早くおとなにしてしまったのはぼくなのかもしれない」という。このセリフ、原作にあるのだろうか。読んでたしかめたい、気がする。
スジだけみれば、ドギツクも描ける素材。
しかし、義母になる女性も、陽に配慮する賢明な女性だし、陽も、少しずつ戸惑いを乗り超えていく。父はそれを静かに見守っている。
登場人物がみな賢いとドラマにならない気がするけれど(笑)、しっかりいい作品になっているところに、今泉力哉監督の力量を感じる。
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映画が終わって、どこにでもよくあるチェーン店「一軒め酒場」へ、ひさしぶり寄ってみる。
なかは昼から盛り上がっていた(笑)。コロナが蔓延してから、こういう風景しばらく見ていなかったな、とおもいながら、さっそく生ビールを注文する。