3月30日㈰。曇り。
Sさんは今日と明日、友人の女子たち4人で、「埼玉古墳(さきたまこふん)」に近い「茂美(もみ)の湯」温泉へ1泊で行く。
現地集合。
川越からクルマで1時間ちょっとくらいの距離──軽量の旅だ。
「茂美の湯」は、古い天然温泉で、日帰り温泉も利用できるけど、田舎芝居を見たりして、安い料金で宿泊もできる。
Sさんの友だち3人をわたしは二十代のころから知っている。若かった彼女たちも、いまは70代半ばになっている。
田舎芝居を見るのが似合う年齢になった(笑)。
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川越・氷川神社の裏手、新河岸川で、Sさんにクルマで降ろしてもらう。わたしは別行動で「ひとり花見」。
「桜祭り」の初日で、船頭が棹をこぎ、川を舟がゆっくりすべってくる。着物を着た女性たちが10人くらい乗っている。
川岸に木で組み立てられた臨時の舞台がつくってある。そこで踊りをやる人たちのようだ。
たくさんの人たちが橋から、待ち構えて写真を撮っている。わたしも中にまじって、スマホで撮らせてもらった。
新河岸川の桜を見てから、30分(わたしの遅い足で)くらい歩いて、中央図書館へいく。
ここで3〜4時間本を読んで、帰りに居酒屋でお酒と夕飯をすませ、また20分くらい歩いて自宅へ帰るつもり⋯⋯。
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2025年2月22日に根岸吉太郎監督、広瀬すず主演の映画『ゆきてかへらぬ』を見た。
長谷川泰子をめぐる中原中也、小林秀雄の「三角恋愛」をテーマにした作品。長谷川泰子を演じた広瀬すずの大正風ファッションが目に楽しかった。
その長谷川泰子をもう少し知りたくなったので、2冊の本を読んでみた。
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1冊は、長谷川泰子が語る(村上護編集)『中原中也との愛 ゆきてかへらぬ』。
これは泰子本人が(中原中也だけでなく)、自分の半生を振り返って口述したものを村上護氏が「聞き書き・編集」したもの。
これで読むと、中原中也と小林秀雄の間には、かなり愛情の落差がある。
中原中也とは生涯のかかわりを感じるが、小林秀雄との関係は一過性のものとしか見えない。
そのわりに長谷川泰子の病的な「潔癖症」に悩まされたのは小林秀雄の方で、最後は泰子を置いて逃げ出してしまうが、地獄のような同棲生活で、小林秀雄でなくても逃げ出したくなるだろう、とおもってしまう。
長谷川泰子は、ときどき女優の面接を受けたりしているが、長続きしないし、銀座のカフェのようなところで少しの期間働くこともあったが、あとの大部分を知人(中原中也を知る作家たち)の好意にすがって暮らしを立てている。
どうしたら、そんな暮らしが可能なのか?
読む限りでは、その人たちと「恋人」や「愛人」の関係でもないようだし⋯。
泰子は、望まず産んだ子どもがひとりいるが、子育ては雇ったおばさんまかせで(そんなお金がどこにあるのか)、本人は新宿あたりでぶらぶら遊んでいる。子育てのエピソードはほとんど出てこない。お気軽そのもの。
本人談とはいえ、長谷川泰子という女性の魅力がよくつかめないまま読了した。
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もう1冊は、窪美澄著『夏日狂想(かじつきょうそう)』。こちらは長谷川泰子をモデルにしたフィクション。力のある小説だ。
小説のなかの名前はちがっているが(泰子→礼子)、中原中也、小林秀雄との関係は、長谷川泰子の『ゆきてかへらぬ』を踏襲している。なので、そのあたりは「ああ、そうか」という感じで読んでしまう。
むしろ、わたしには、そのあとの──戦中・戦後の礼子(泰子のモデル)の生き方に惹かれた。実際の長谷川泰子を離れ、フィクション性が濃くなったので、作家が想像力を自由に膨らませやすくなったのだろうか。
特に戦時中の描写が圧巻だった。力強く生き抜いていく主人公の礼子が描かれていく。窪美澄さんは、わたしよりずっと若い世代の人なのに、戦争下の描写に勢いがある。恐るべきは、作家の想像力のすごさ!
わたし的には、最後になって少し技巧的にまとめすぎている、と感じたけれど、全体的には満足だった。