
11月11日(土曜日)。雨。
「シネスイッチ銀座」へ、Sさんと呉美保(お・みぽ)監督の『ふつうの子ども』を見にいく。
川越→和光市→有楽町。
有楽町線の有楽町駅で降りて、映画館へ向かったが「シネスイッチ銀座」はしばらく来ていない。雨で傘をさしていたので視界も狭い。このへんかな、って角を曲がるが、ない。
Sさんが反対側から通行してくる女性に聞いて、映画館へたどりついた。
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呉美保監督の作品は、昨年『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(2024年。出演:吉沢亮、忍足亜希子。)を見て、それがとても気持ちよかった。
息子は耳が聞こえるが、両親は聞こえない「ろう者」。両親役を、実際に「ろう者」である忍足亜希子(おしだり・あきこ)が母を、今井彰人が父を演じた。
わたしは、息子の不満・怒りを全部受け入れようとする母親の優しさに心をうたれた。こういう母にずっと憧れていたのだな、って映画を見て気がついた。
そんな前作に続く呉美保(お・みぽ)監督の映画が『ふつうの子ども』。有楽町まで足を延ばすのはめんどうだったけれど、前日ネットで座席を予約して出かけた。
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予告編。
「そこのみにて光輝く」「きみはいい子」の監督・呉美保と脚本家・高田亮が3度目のタッグを組み、現代を生きる子どもたちの日常を生き生きと描いた人間ドラマ。
10歳の小学4年生・上田唯士(うえだ・ゆうし)は両親と3人家族で、おなかが空いたらごはんを食べる、ごくふつうの男の子。最近は、同じクラスの三宅心愛(みやけ・ここあ)のことが気になっている。環境問題に高い意識を持ち、大人にも物怖じせず声をあげる心愛に近づこうと奮闘する唯士だったが、彼女はクラスの問題児・橋本陽斗にひかれている様子。そんな3人が心愛の提案で始めた“環境活動”は、次第に親たちも巻き込む大騒動へと発展していく。
(「映画.com」より)
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以前から子どもたちを生き生きと演出する映画監督が好きだった。
むかしですぐに思い浮かべるのは、小津安二郎監督。
戦前の名作『大人の見る絵本──生まれてはみたけれど』(1932年。オリジナル脚本。サイレント)は、小学生の兄弟が活躍する喜劇映画。まだ建物が少なかった池上線沿線で撮影されている。
家では偉そうに威張っている父親が、上司の前ではペコペコお愛想をいっている姿を見て、子どもたちが父親に反乱を起こす──そんなサラリーマンの悲哀を暗くならず喜劇として描いている。

小津安二郎と同時代では、清水宏監督の子ども映画が楽しい。ストーリーも演出も、自然性を重視することでは徹底している。
『風の中の子供』(1937年。原作は坪田譲治。トーキー)を見てからファンになった。
「賢兄愚弟」──その二人の兄弟は、父親が「私文書偽造」の疑いで、警察に連行される。母親は働きに出て、素行の悪い弟は叔父の家へ預けられる。兄弟は別れ別れに暮らすようになるが⋯⋯逆境にめげない兄弟が見るものを元気づけてくれる。
清水宏監督──子ども映画のみならず、いい作品がいっぱいある。個人的には、もっと注目されていい映画監督ではないか、と思う。

『風の中の子供』。
(『生まれてはみたけれど』(サイレント)、『風の中の子供』(トーキー)──どちらも現在YouTubeで見られるようです)
現役の監督では、是枝裕和監督の描く子どもが好き。最初見たのが『誰も知らない』(2004年公開)。「こりゃすごい」と思った。
4人の子どもを持つシングルマザーが、「新しい恋人」ができると放置したままいなくなってしまう。母親を演じたYOUの飄々とした演技が秀逸だった。
「親がなくても子は育つ」(太宰治)──是枝監督は、母親の子ども放置を「倫理的な視点」から裁いていない。
母親不在でも、子ども4人が、日々をたくましく生きていく──その様子をドキュメンタリー映画のように描いている。子どもたちは「演技なき演技」で、生き生きと「活躍」していた。

『誰も知らない』。
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映画『ふつうの子ども』は、3人の子どもたちが主人公で、大人の俳優がサポート役にまわっている。
蒼井優、風間俊介、瀧内公美の3人の演技派俳優が、芝居らしい芝居をしていない。それがいい。蒼井優と風間俊介は、子どもたちのなかに同化している。
蒼井優は、ふつうにやさしいおかあさんだし、風間俊介は、よくいそうな、生徒に人気のある先生を演じている。
唯一、瀧内公美が最後に少しきつめな母親を演じるが、それだって、しっかり抑制されている。やりすぎていない。
演出が過剰な映画に食傷すると、こういう映画にホッとする。