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11月8日土曜日。
川越から東武東上線に乗って、三宅唱監督『旅と日々』を見に、「イオンシネマ板橋」のある東武練馬駅へいく。映画より先に「まゆみ」さんのお店で(カット1000円)、伸びすぎた髪を少しだけ短くする。
一緒に行ったSさんとは、カットが終わって駅前の「コメダ珈琲」で合流。
めいめいに1時間ほど本を読んで過ごす。いまわたしが読んでる本は岩本薫著『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』(進行55%)。今日の映画とは関係ない。
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【予告編】
「夜明けのすべて」「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱が監督・脚本を手がけ、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に撮りあげたドラマ。「怪しい彼女」「新聞記者」のシム・ウンギョンを主演に迎え、行き詰まった脚本家が旅先での出会いをきっかけに人生と向き合っていく様子を、三宅監督ならではの繊細なストーリーテリングと独特の空気感で描き出す。
(「映画.com」より)
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【夏編──岩場の海】
険しい低山に囲まれた岩場の海。
若い男女がその日出会い、並んで座りながらポツポツ話はじめる。
(映画は原作のマンガよりも会話が刈り込まれている。原作を復元してみると状況が見えやすい)。
【映画にはない原作の会話を引用(青色文字)】
「一人で?」と青年。
「一人の方が気が楽でいいわ。あなたも東京から?」
「母親に誘われてしぶしぶ来たんです。日陰のもやしみたいだから黒くなれと言われてネ」と青年はいう。「でも来てみてよかった」
尖った岩山や、高い波が打ち寄せる海の風景が、繰り返し映る。
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翌日はあいにくの台風だった。雨がザーザー降っている。それでも二人は昨日と同じ場所にやってくる。
【原作】↓
「泳ごうかな。明日は東京へ帰るから泳ぎおさめをしなくちゃ」と女性がいう。
「あした?」と青年がおどろく(知りあったばかりなのに)。
「それに私、ものすごい勇気出して⋯⋯ビキニ着てきたの」
女性は、服を脱いで水着になる。
「すごいや」
「これで一度泳いでみたかったの」
「よく似合うよ──すごくきれいだよ」
⋯⋯雨の中を泳ぐ二人。
高波の中──青年は上手に水を切りながら泳いでいく。中学から泳ぎは得意だった(それをこの女性に見てもらいたい)。
先に岸にあがった女性が、
「あなたいい感じよ」
と、泳ぐ青年に声をかける。
雨が激しく海を打ちつける。
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「夏」の映像は、脚本家の李が書いたものを映像化した「劇中劇」だとわかる。上映されたのは大学の授業の中──。
女子学生が手をあげて「セクシーでした。官能的です」と映画の感想をいう。
しかし、脚本を書いた李さんは「わたしには才能がありません」と答える。
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【冬編】
自分の才能に自信を持てない李さんは雪国へ旅に出る。
ここから原作「ほんやら洞のべんさん」になる。
泊まるところを予約してない李は、通常の宿をとることができず、雪深い場所、べんさんの「ほんやら洞」に泊まることになる。
「ほんやら洞」には暖房もない。寝るのは囲炉裏のそば。李さんは、囲炉裏を挟んでべんさんと話す。
(註:原作の主人公は男性のマンガ家)
【原作】↓
「お前さまはどんな商売をしているのかね」とべんさん。
「ぼくはマンガ(映画では脚本家)を描いています」
「ふ⋯⋯ん、マンガって商売はもうかるかね」
「あまりもうかりません」
「もうからないのに、なぜよさないのかね」
「しかたがないのです」
「するとお前さまは不遇なんだね」
李さんは、しばらくこの宿に滞在を決めた。
翌日から新しい脚本の構想を練りはじめる。
奥深い雪景色──その夜、べんさんはある行動に出た。李さんもそれに従う。
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美男子の堤真一がべんさんを演じるのはちょっと気の毒だが、雰囲気は出ている。
東京からやってきた陰りのある若い女性を河合優実。彼女にほのかな好意をいだく青年を高田万作。
原作より青年の年齢が若いような気がするが⋯⋯。
つげ義春の熱烈ファンで知られる佐野史郎も出演している。佐野史郎は、以前石井輝男監督の『ゲンセンカン主人』(1993年公開)では主演をしていた。
自己評価の低い脚本家の主人公・李を、シム・ウンギョンが演じる。
おどおどしているが⋯⋯やりすぎてないし、自然でいい感じ。シム・ウンギョンって女優さん、何気なくてうまいなあ、って思う。
対人恐怖症・赤面恐怖症だった原作者・つげ義春の雰囲気をもっている。
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三宅唱監督の作品は、やっぱり好き。これまでのどの作品も大仰(おおぎょう)ではなく、細部に魂が宿っている。
この静かな作品を日本の映画界はどう評価するんだろうな、って思いながら映画館を出た。