かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

『LOVE』のドキュメンタリーを見る(4月28日)

LOVE (通常盤)
ringoさんからお借りしたDVDで、WOWOWが放送した『LOVE』のドキュメンタリーを見る。現在のビートルたちを見るのは、いつもうれしい。

リンゴが、ポールが元気だった。

写真では見ていたジョージ・マーチン、ジャイルズ・マーチン父子の姿を映像で見れた。

『LOVE』をリミックスした息子ジャイルズが語る苦心談を、わきで静かに聞いて、時々なっとくしたようにうなずく父ジョージ・マーチンが優雅で美しい。

リンゴもポールも、ビートルズの音楽を、かつてそのメンバーのひとりだったことを、今は誇りにおもっている。テクノロジーで現代に蘇るビートルズのすばらしさを、彼ら自身も感動して話している。

ビートルズ・ナンバー解禁まで

しかし、1970年代は、ポール、リンゴ、ジョンやジョージも、ビートルズを過去に葬ろうとした。すくなくても、表向きビートルズに冷淡だった。4人は、ビートルズから脱出することに懸命だった。

1980年にジョン・レノンは、ビートルズを封印したまま亡くなってしまう。ジョンの場合、ビートルズを解禁するまでのゆるやかな時間が残っていなかった。

ビートルズ再結成? もう一度高校生には戻れないよ」と、ジョン・レノンはいう。

映像の『ビートルズ・アンソロジー』(1995年)で、リンゴは「ジョンがビートルズを否定したままで亡くなってしまったのが残念だ」といっている。

リンゴ、ポール、そしてジョージは、1980年代が終るころになって、ビートルズを20年近い封印からといた。3人の時期がほとんど同じなのがおもしろい。彼らは時々奇妙な一致をみせる。

リンゴの場合


重いアルコール中毒にかかっていたリンゴは80年代の後半に立ち直る。映画俳優への転進は結局成功しなかった。リンゴは再び、自分がビートルズのドラマーだったことを思い出す。音楽への回帰が、リンゴを、アルコール中毒から立ち直らせた。

豪華なメンバーをバックにしてワールド・ツアーに出たリンゴは、ソロ・メンバーとしては、はじめての来日公演をおこなう。リンゴはステージで、ビートルズ・ナンバーを解禁した。

1989年武道館、ドラムを叩きながら歌うリンゴを、夢ごこちで見た。

ポールの場合

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ポールは傑作『フラワーズ・イン・ザ・ダート』(1989年)で久しぶりにヴァイオリン・ベースを手にする。アルバムで共演したエルヴィス・コステロのアドバイスだという。スタジオ・リハーサルではビートルズ・ナンバーを次々練習する。初のソロとしてのワールド・ツアーでは、封印していたビートルズ・ナンバーを惜しげもなく披露した。

1990年、ポールはソロとして初来日した。ポールの演奏する『アビー・ロード』のB面メドレーを聴いたとき、ぼくは「生きていてよかった」とおもった。

ジョージの場合

ジョージが発表した1987年の『クラウド・ナイン』は、ビートルズ・ファンのジェフ・リン(エレクトリック・ライト・オーケストラ)がプロデュースしている。ジェフ・リンによって、ジョージの音楽に、ビートルズのサウンドがブレンドされた。70年代は頑なにビートルズを否定し、1974年のライヴで、ビートルズ・ナンバーをグシャグシャに壊してみせた男が、「ファブ」(「When We was Fab」)という曲では、ビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォーラス」をパロってみせた。ジョージのなかで何かが変わってきているのを予感する。


1991年、クラプトン・バンドを連れて来日したジョージは、オープニングから「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」、そして「オールド・ブラウン・シュー」、「タックスマン」と、ライヴ演奏初もののビートルズを3連発!

1974年、「そんなにビートルズが聴きたかったらウイングスの公演へいってくれ」といった男が、ビートルズを封印からといた。ライヴ嫌いのジョージの日本公演は、奇跡のなかの奇跡だった。

『LOVE』の賛否から時間がたって

そんなこんなの、ビートルズ解散後からの経緯をおもうと、やっぱり現在のリンゴ、ポール、ジョージ・マーチンの語る「ビートルズ」は感慨深い。彼らは素直に、ビートルズが今も輝きを失わないことをよろこんでいる。

シルク・ドゥ・ソレイユビートルズとの「合流」がどのようなものか、いまひとつつかめない。本物のショーを見たら感銘を受けるのだろうか。

ぼくは大体においてビートルズに起こる新しい企画を否定しない。『LOVE』が神聖なビートルズを汚す企画だともおもわない。ビートルズは神聖化や伝説化のなかに閉じ込めるより、現代の才能と「合流」して、なにか新しい側面を生みだすほうがおもしろい、とおもう。これからもビートルズを素材にした新しい試みを体験できるのかな、と考えるのはたのしい。

しかし、それ以上に……、

ぼく個人は、『LOVE』が発売されて、今もビートルズの現役性が証明され、リンゴやポールの元気な姿が見られることを、じつは一番よろこんでいる。


【注】:ringoさんのドキュメンタリー『LOVE』の感想はこちらです。