かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

『花ひらく〜真知子より』(1949年)



【写真】はどちらも高峰秀子。直接この映画のものではありません。


まずは、ringoさんの感想がこちらにあります。

ringoさんも書かれていますが、まず何よりも高峰秀子の輝くような美しさに目をみはりました。女子大生の役ですからね。ブロマイドの売上が一番だったとか、出兵した若い兵士たちの憧れの的だった、という当時の評判がなっとくできます。


いまは、日本映画の数々の名作で、すばらしい演技を残した名女優というイメージが強いですし、それはその通りなのですが、この『花ひらく』の高峰秀子は、まさに「銀幕のアイドル」とよぶのがふさわしい、麗しくまばゆいような女優でございます。

左翼運動家(上原謙)にひかれ、一方青年実業家(藤田進)に求婚される真知子(高峰秀子)。二人の男性のあいだで、真知子は?……というのがストーリーですが、恋愛映画ともいえません。

古い慣習と、新しい左翼思想への共感のはざまで、真知子は悩みます。「わたし」は、「わたし」の心に従って正直に生きていきたい。そこで、周囲が反対する左翼運動家上原謙のなかへ、真知子はとびこもうとしますが……

しかし、左翼運動家の上原謙は、けっして黒澤明の『わが青春に悔いなし』(1946年)で、藤田進が演じた反戦運動家のように理想的には描かれておりません。この映画には、陰気に正義をとく上原謙がいます。こんな人間性を無視した暗い正義から、民衆を救う思想が生まれるとはおもえない……その後の左翼思想の衰退を予感させるような、この映画の視点をぼくはユニークに感じました。

ただ『わが青春に悔いなし』でもそうでしたが、この時代の左翼思想家の描き方は全体に硬いですね。この映画もとても生硬な作品です。

人間を思想的に描かない小津安二郎成瀬巳喜男が、現在見てもすばらしい見応えを与えてくれることを考えると、思想家を人間として厚みをもって描くことのむずかしさを、考えてしまう作品でした。


【追記】:ringoさんが書いているとおり、「日本映画専用チャンネル」はラストのストーリーを間違っております。これは、真知子がどちらの男性も選択しないことで、本当に自立への道を決心したことが暗示されるラストですから、小さな間違いとはいえません。この解説を書いたひとは、実際の映画を見ずに資料だけで書いたのかな?

東京の女(1933年)

小津安二郎サイレント時代の作品。

ストーリー】:優しい姉(岡田嘉子)と弟(江川宇礼雄)が同居している。姉は弟をなんとか大学を卒業させようと、表向きの職業のほか、じつは自分のからだを売っていた。その事実を知った弟は、姉に失望し、生きることにも絶望、自殺してしまう。


上映時間、1時間にも満たない小品。内容も、いかにも古めかしいストーリーです。一直線に悲劇的な結末に向かってしまいますが、姉の行為にも同感できませんし、弟もまるで姉に対して無理解。起こらなくてもいい悲劇をムリにこしらえたような映画です。

その後ソ連へ亡命してしまう、岡田嘉子の主演作品。