DVDに録画されたものを見ました。
昭和31年。売春防止法の法案が国会で論議されている。これが成立したら、体を切り売りしながら苦しい生計をたてている彼女たちはどこへいくのか?
溝口健二の遺作となった作品です。ぼくが見るのは、これが3度目ですが、溝口作品で一番はじめに見たのはこの映画でした。情緒を排したかわいたリアリズムというのか、これだけ女優が共演していながら、どこにも映画らしく仕立てた甘さがありません。
この作品から、溝口健二の映画を見るようになりました。
『赤線地帯』の舞台となっている、吉原の遊郭「夢の里」で働く娼婦たちはこんな女性たちです。
- やすみ(若尾文子)は、男からお金をみつがせて、せっせと溜めこんでいる。いつまでもこの稼業をやっていてもしかたがない。いずれ溜めたお金で商売をはじめるつもりである。映画の最後にはそれが成功する。お金をみつぐ男の破滅には関心がない。
- ゆめ子(三益愛子)は、一人息子を女手ひとつで育てるため、吉原で働いている。息子は成長したが、母の職業を知り、母と子の縁を切りたいといいだす。ゆめ子は発狂してしまう。
- より江(町田博子)は、みんなに祝福されてなじみ客へ嫁ぐが、結局嫁ぎ先でこきつかわれて、再び頭をさげて「夢の里」へもどってくる。
- ハナエ(木暮実千代)は、病弱で働けない夫と赤子をかかえて、「夢の里」に通いで働いている。夫は「生きている価値がないから死にたい」という。ハナエが働いても働いても、借金はかさむばかりだ。
- ミッキー(京マチ子)は、元黒人兵のオンリー。彼女は生活に背景をもたないだけ気楽なようだ。映画では、ガシガシどんぶり飯をかっこむシーンが出てくる。ドライに客をとるが、高価なものをやたらと買うので「夢の里」の借金はふえるばかり。
- しず子(川上康子)は、「夢の里」へ下働きにやってきたまだあどけない少女。はじめてきれいに着飾ると、おそるおそる柱の陰から「ちょいと」と客に声をかける、そこで映画は突然終る。
これまでの溝口作品は、描かれる世界は厳しくても、そのなかに生きる主人公はどこか善良や誠実であって、そこに人情噺が生まれる土壌がありましたが、『赤線地帯』では、いっさいの情緒ははぶかれて、最後に笑うものは守銭奴に徹した若尾文子だけ。
徹底したリアリズムが貫かれています。すごい作品だとおもいました。