かぶとむし日記

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池袋で成瀬巳喜男監督生誕100年記念特集スタート!

池袋の新文芸座成瀬巳喜男監督の「女の座」と「乱れ雲」の2本を見てきました。映画館は満員です。1回目の上映がすんでから、司葉子小谷承靖監督のトーク・ショーもあったので、見てから帰りました。

「乱れ雲」(写真)  ■1967年/東宝
 ■出演:司葉子加山雄三草笛光子

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誤って夫を車で轢き殺してしまった青年(加山雄三)と、被害者の妻(司葉子)が恋愛するという、かなり突飛な設定の作品です。青年には法的な過失はなく、やむをえない事故と認定されますが、被害者の妻は青年を憎み、轢き殺してしまった青年も自分を責めて苦しみます。

そうした憎しみあう男女が、どのように互いに愛情をもつようになっていくか、その行程をムリなく描くのが成瀬巳喜男監督の手腕です。実にてがたく描写に描写を重ねていきます。
二人の気持ちの変化はストーリーがわかっていても、見ているとドキドキするくらいスリリングです。不自然さや飛躍するごまかしがありません。十和田湖の風景を背景にした最上の恋愛映画です。司葉子の清潔な美しさがまぶしい。

☆「女の座
 ■1962年/東宝
 ■出演:高峰秀子杉村春子司葉子他。

トークショーの小谷監督のお話によりますと、この映画は正月映画として東宝のオール・スター企画のような作品だったそうです。そういうお祭り映画は、だいたい豪華だけど内容は希薄になりそうですが、さすがに成瀬監督です。大勢の女性が登場しますけど、見事に生活の背景、性格が描きわけられていて、見ごたえある作品になっていました。家族のそれぞれがエゴイストで、両親と死んだ息子の嫁(高峰秀子)だけが、心を通わせているところなど、小津安二郎監督の「東京物語」とテーマは、重なります。しかし、味わいは「東京物語」のような枯淡な感覚ではなくて、むしろテレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」に近いです(笑)。もっとも、人物の掘り下げ、映像の魅力、成瀬演出の重厚さなど、作品の出来栄えは比較になりません。

それから、作品のよしあしとは直接関係しませんが、昭和30年代の東京の町並み、家のつくり、などが出てきて、とても懐かしい気持ちをふくらませてくれます。

2本の成瀬映画を見て、大満足で帰りました。この成瀬巳喜男特集は2週間(さらに、ドキュメンタリー映画記憶の現場」を含めると3週間)続きますので、これからも行ける日は通いたいとおもっています。