かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

「日本映画」ギンレイホールの2本


数日前、ギンレイホールで見た映画ですが、ブログにアップする時間がなかったので、追記しておきます。

西川美和監督『ゆれる』(2006年)

ゆれる

母の一周忌で久しぶりに帰郷した猛は、兄の稔と幼なじみの智恵子と3人で近くの渓谷に出かけたが、吊り橋から智恵子が落下してしまい、そばにいたのは兄の稔ひとり。事故だったのか、事件だったのか……。人間の感情の<揺れ>を描いた秀作!!

(「ギンレイ通信」Vol.95より)


東京でカメラマンとして成功している弟の猛(オダギリジョー)は、プレイボーイでもある。帰郷するや、兄がひそかに慕っている智恵子(真木よう子)と、すぐに男女の関係をむすんでしまう。


一方兄の稔(香川照之)は、いつも笑顔をたやさず周囲に心を配りながら、父のガソリンスタンドを継いで働いている。智恵子はスタンドの従業員だった。


猛と稔は、智恵子と3人で近くの渓谷へ遊びに出かける。智恵子は内心で稔の心を知りながら、気持ちは弟・猛へ傾いている。


渓谷にかけられた吊り橋を智恵子が渡るのがあぶなっかしく、稔は手を添えようとする。しかし、好きでもない稔に智恵子は残酷だった。


「わたしに手を触れないでよ!」


と大声で怒鳴られてハッとする稔。智恵子の明らかな自分への嫌悪を、稔ははじめて知ったのだった。


まもなく智恵子が吊り橋から落下するのを、猛は離れたところから見る。兄の稔が吊り橋から下をのぞきこんでいる。兄が智恵子を吊り橋から落としたのか?


感情をおもてに出さない兄は、猛と智恵子の関係を知っているのか、いないのか。猛は兄の心がつかめないまま、気持ちが揺れ動く。


オダギリジョー香川照之の名演で、奥行きのある作品になっているとおもいました。事件そのものよりも事件があたえる心への動揺を描いています。弟の猛は直接には智恵子の死に手をくわえておりませんが、兄が慕う智恵子と、兄には内緒で関係をもったことで、兄に殺意の動機をあたえたかもしれません。このことが事件に影をさしています。


一部「?」を感じるシーンもありますが、おもしろく見ました。表面は静かな作品です。企画に『誰も知らない』、『花よりもなほ』の是枝裕和が参加しているのをおもしろくおもいました。是枝裕和監督のデビュー作『幻の光』がもっているゆったりした感覚を『ゆれる』にも感じたからでした。



原田昌樹監督『旅の贈りもの 0:00発』(2006年映画)

深夜0時00分に大阪を出発する、3両編成の不思議な列車に何かを求めて、あるいは何かから逃れるために乗り込んだ、訳ありの男女5人……。行き着いたのは、日本の原風景の美しさにあふれた「風町」。住人の身内のような歓迎に悩める心が再生するハートフル・ドラマ!!

(「ギンレイ通信」VOL.95より)


友達のできないひとりぼっちの女子高校生、恋人に裏切られた女性、家族から必要とされないサラリーマン、愛妻を失った夫……などが、行き先不明の列車に乗ってたどりついた「風町」。


美しい自然とやさしい村人の心が、都会で傷ついたひとたちを癒していくという、よくありそうな話でしたが、描写がていねいで、気持ちよく見ることができました。


こんな不思議な列車にのって、どこか遠い日本へ旅したい、という願望はぼくのなかにもあります。センチメンタルな映画ですが、過剰な甘さにはなっていない、とおもいました。つくり手のセンスでしょうか。