かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

旅先の子連れ女性を救う寅さん!

寅さんシリーズ第6作「男はつらいよ 純情篇」
男はつらいよ 純情篇 [DVD]
ビデオを見はじめて気づきました。これって、おれ比較的最近見たよな、って(笑)。寅さんのファンは、きっと全48作をぼくのように何度も何度も繰返してみているのだろうなあ。娯楽作品でありながら、寅さんシリーズにはそういう魅力がある。

シリーズ第6作のマドンナは、若尾文子だ。きれいです。ぼくは、溝口健二監督の「赤線地帯」で見たくらいで、あまり若尾文子の若い時代の映画を見ていない。しかし、寅さんだけではなく、おいちゃんもたこ社長も、今回のマドンナにはクラクラしてしまう(笑)。若尾文子の色香はすごい(笑)。

ファースト・シーンは、テレビの白黒画面で、柴又が紹介される。帝釈天で鐘をつく午前様(笠置衆)。やがて、テレビは柴又商店街にカメラを移し、「とらや」でだんごづくりにいそしむおいちゃん(森川信)の姿、さらには江戸川にたたずむさくら(倍賞千恵子)までが‥‥。

旅先の食堂でラーメンを食べながら、偶然テレビでそれを見ている寅さんは、おいちゃん、おばちゃん、さくらの姿を見て、強い郷愁にかられる‥‥これが映画のスタートだ。

海のそばで知り合った子連れの女性(宮本信子)は、宿に泊まるお金がないので、お金をかしてください、と寅さんに頼む。返すあてのない借金を申し込む女性は、寅さんに自分の体で借金をつぐなおうとする。

寅さんは、どうするだろうか。

次のセリフは、寅さんの面目躍如たるものだ。

俺の故郷にな、ちょうどあんたと同じ年頃の妹がいるんだよ。もし、もしもだよ、その妹がゆきずりの旅の男に、たかだか二千円ぐらいの宿賃でよ、その男がもし、妹の体を何とかしてぇなんて気持ちをおこしたとしたら、俺はその男を殺すよ

この旅先では、高潔で人の不幸を思いやる人格者寅さんが、なぜか柴又へ帰郷するや、わがままで周囲を困らせるやっかいものになってしまう。この落差はなんだろう? むかしから、寅さん映画を見ていると、そんなことを思ったりする。

さくらの夫=博(前田吟)の独立さわぎから、博とたこ社長の仲介を引き受ける寅さんだけれど、あいまいな態度が事態をさらにややこしくしてしまう。もう、ここには旅先の人格者である寅さんはいない。寅さんの無責任さが問題を大きくし、作品としては喜劇の要素が大きくなって笑いが広がる。

マドンナ若尾文子が寅さんをやんわりと拒絶するセリフがある。シリーズ48作でも、マドンナが自覚的に寅さんをフルことは意外に少ないのではないだろうか。たいていは、寅さんが自分に恋をしていることすら、彼女たちは無自覚なのだから。

若尾文子のマドンナは、いいます。

私困ってるの。ある人がね、私にとっても好意を寄せて下さるの。その人とてもいい人なんで、私嬉しいんだけど・・・。でもね、私どうしてもその気持ちをお受けする訳には・・・

寅さんシリーズ第6作。48作目まで続く寅さんの失恋の旅は、まだまだ始まったばかりだ。