かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

加藤廣著『信長の棺』

信長の棺

久しぶりに長編歴史小説(412頁)を読みました。むかしから信長ファンだった友人から薦められてですけど、実際にこの小説は、おもしろかったです。

本能寺の変」では、一般に、信長は本能寺の炎の中で切腹したことになっていますが、不思議なことに、明智光秀は信長の遺骸を発見できませんでした。

敵将の首をとり、それをさらして、天下が信長から光秀に移行したことを知らしめなければならないわけですから、明智光秀は必死に信長の遺骸を探し回ったことだとおもいますが、しかし、ついに信長の遺骸は本能寺の焼け跡に発見されませんでした。

これは歴史の謎の1つ。

そこに目をつけて「信長の遺骸は一体どこにいったのか?」をテーマに描いたのが本著『信長の棺』です。


信長の遺骸を探し求めていくのは、実在の人物で「信長公記(しんちょうこうき)」の作者太田牛一。彼は実際に信長の家臣であり、貴重な同時代の視点から、信長一代記を後世に残した人物です。この太田牛一の人物像が肉太に描かれているので、読んでいると彼と一緒に戦国時代の一場面に遭遇しているような気持ちになってしまいます。


時代の権力者とは何か?

日本の歴史のなかで類例のない天才であった織田信長の革新性と、一転して容赦のない残虐性が暴かれ、庶民から出ていながら、庶民を裏切る秀吉の小ずるい卑劣さが描かれますが、総じて、太田牛一は、信長に信服し、秀吉を忌み嫌っていたようです(作中の話ですが、事実かも)。

歴史的に著名な人物だけでなく、太田牛一にからんで登場する脇役のひとりひとりが厚みをもって描かれているので、いい小説を読んだ充足感がありました。ストーリーは、ネタバラシになるので、控えますが、信長、光秀、秀吉、もしくは戦国時代に興味のあるひとでしたら、きっと楽しめる作品です。歴史小説もおもしろい。