かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

木下恵介監督『四谷怪談』(1949年)


図書館にビデオがあったので、借りてきました。これまで『四谷怪談』の映画化はほとんど見ているので、興味がありましたが、これはじつは「幽霊の出ない四谷怪談」であることがわかりました。


浪人暮らしにいやけがさした民谷伊衛門(上原謙)は、偶然救った豪商の娘お梅(山根寿子)に見初められ、その父の紹介から仕官の道がひらけることになりました。そうなると、邪魔なのは妻のお岩(田中絹代)、、、


極悪人直助(滝沢修)のいれ知恵もあって、とうとうお岩を殺害いたします。


ここまでは、どの四谷怪談もだいたい同じですが、この映画ではお岩の幽霊はあらわれません。極悪人は、みずからの悪業で身を滅ぼすのとおり、直助の強欲と、民谷伊衛門の罪意識が、幽霊の登場なくして、自らを破滅に追いやります。


前編(85分)・後編(73分)の長い「四谷怪談」ですが、ちょっと退屈でした(笑)。


怜悧な表情をみせる上原謙の民谷伊衛門はなかなかよかったのですが、木下恵介が怪談ものをありきたりに撮ることに抵抗があったのかどうか、中途半端なリアリズム映画になってしまいました。



「四谷怪談」の傑作は・・・?


ちなみにぼくの好きな「四谷怪談」の映画化は、毛利正樹監督、民谷伊衛門=若山富三郎、お岩=相馬千恵子の『四谷怪談』(1956年)と、中川信夫監督、民谷伊衛門=天知茂、お岩=若杉嘉津子の『東海道四谷怪談』(1959年)の2つです。



毛利正樹版『四谷怪談』(写真右)は、白黒映像。夜の墓場で、若山富三郎の伊衛門がお岩の亡霊と闘うシーンはモノクロならではの怖さ。この映画は意外に知られていない「四谷怪談」の傑作です。つくりが武骨なだけに、怖さは中川版を上回っているかもしれません。小学生のころ見て、ひとりでトイレにいけなくなりました(笑)。



中川版『東海道四谷怪談』(写真下)は、カラー作品。これが、もっとも有名な「四谷怪談」の映画化作品でしょう。



子供を抱いたお岩が、容赦なく伊衛門や直助に襲いかかります。足を洗う桶で、蛇が足にからまりついたり、蚊帳の上から蛇が落ちてきたり、お岩のシンボルとして蛇が登場します。戸板に釘で打ち付けられたお岩が、戸板ごと天井から落下してきたり、とにかく幽霊の見せ場が派手。中川信夫シュールレアリズム的美意識を感じさせる秀作でした。