かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

吉田修一著『東京湾景』(2003年)



品川埠頭の倉庫で働く亮介は、お台場の企業で働く美緒と、携帯の出会い系サイトで知り合う。


亮介は美緒の心身ともに惹かれるが、美穂にとって亮介の魅力は、<からだの相性>だった。美緒は、亮介のアパートにいつづけ、会社を遅刻・欠勤。有能なキュリアがあやうくなるほど、亮介との性愛に溺れる。


しかし、美緒は、亮介の<人格>には関心がわかない。そもそも一緒にいても会話がない。昼も夜も、セックスを繰り返す。


亮介は、汗にまみれて働き、労働が終ると、自転車で走り、「湾岸浴場」という銭湯で汗を流すのを楽しみにしている。亮介には、美緒のように、こころとからだが分離するような、屈折した意識はない。優れた健康と強い性欲をもつ亮介は、ストレートに美緒を求め、愛情を注ぐ。


吉田修一は、小説の舞台を具体的に設定し、それを精密に描く。ここでは、大きな倉庫が並ぶ、品川埠頭の景色が詳細に描かれる。


亮介の品川埠頭のアパートへ通いつづけ、性愛に我を忘れ、翌朝、不眠のままでお台場の会社へ通う美緒の描写は、まぶしいくらだ。美緒のからだには、汗と精液の匂いがする。


東京湾景』は、美緒が亮介の<人格>を発見するまでの、これも一種の恋愛小説だろう。