かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ウォルフガング・ペーターゼン監督「ポセイドン」


あの有名なパニック映画の草分け「ポセイドン・アドヴェンチャー」のリメイク、ということはどなたもご存知だとおもいます。ですから、どうしてもオリジナルと較べてしまいますね。

オリジナルは、劇場で見て興奮し、それからぼくはしばらく上映されるパニック映画を片っ端から見ていました(笑)。そのくらいよくできていました。人物関係も、あとからアメリカ映画の類型化のもとをつくったとおもえるほど、人と人との関係があざやかに描かれていました。もちろん、ひっくり返った船内のドラマも凄かったです。

新作は、現在の技術ですから、このひっくり返った船内の状況は十分に見応えがあります。ただ、オリジナルに較べて、どうも1つ1つの苦難のなかで乗越えていく人たちの心情が淡白に感じられなくもありません。いや、でもあの傑作に較べたらすべて凡作になってしまいますね。リメイクを前向きにとらえたら、名作への大胆な挑戦です。少しも退屈せずに、画面に見入りました。

ハリウッドのパニック映画は、「ジョーズ」のような傑出した作品をのぞくと、ほとんど人物関係が類型化しています。愛し合う男女や親子(それまで多少ギクシャクしているにしても)、心傷ついた男女の遭遇、人間のエゴ……それがパニックが起こったことで絆を強めたり、癒されたり、醜さが明らかにされていく、というような筋立てがほとんどです。

今回、人間関係の描写が淡いのをおもしろくおもいました。さきほどもいいましたが、パニック映画の人間関係の類型化をつくったのは、ぼくの想像では「ポセイドン・アドベンチャー」ではないか、とおもいます。パニック映画となると、軒並み、あの「タイタニック」までが類型化を継承していますが、「ポセイドン」は、このうんざりするような「愛とエゴの構図」をさらっと描いています(ないわけではありません)。ぼくは、それでよかった、とおもいます。

カート・ラッセル(こちらが主人公かな?)、リチャード・ドレイファスがしっかり脇を固めています。彼らは、抑制された演技でさすがうまいですね。しかし、なにより、苦しい状況にぶつかっても新たな可能性を切り拓いていく主人公を演じたジョシュ・ルーカスがきびきびしていいです。彼のきびきびした表情が、人間関係の甘ったるさをしつこく描かなくても、観客の目をひっぱっていきます。この映画は、オリジナルを越えることはありませんが、十分にぼくは楽しむことができました。