「泥の河」「死の棘」の小栗康平監督が、前作「眠る男」以来9年ぶりに発表する新作。山あいの小さな町の日常が静かに綴られるファンタジックな人間ドラマ。
(「goo映画」の解説より)
日本映画は、進化しているなあ。こんな映画、むかしにはないですよ。技術的な意味でいっても、とても以前には撮れなかった作品なのでは……そんなことをおもいました。
これだけ、大胆で繊細な映像で連なった映画を、ぼくはあまり見たことないです。1シーン1シーンが、全部といっていいほど、完成された構図です。それだけいえば、小津安二郎作品みたいですけど、味わいはまったく別です(笑)。
大胆な発想と繊細な神経で撮影された、光と色の美しさ。普段見ているなんでもないものが、幻想に変貌していくおもしろさ。景色は、刻々と変化して、一瞬もじっとしていない。
この映画の<メイキング>(DVDの付録についています)を見ると、いたるところにCGが活用されて、現実のなかに<幻想のイメージ>を挿入することに効果をあげているようです。<メイキング>で説明されなければ、ぼくには、どこがCGによる撮影なのか、全然わかりません。改めて、CGは、特撮SFや子供のファンタジー映画で活躍するだけではない、ということがわかりました。
町や森や田舎道が、現実のままで幻想的。登場人物の少女たちがつくる<ものがたり>が、現実のなかに幻想としてまじりこみ、それが映像で表現されます。その感覚のすばらしいこと。撮影や美術など、全スタッフが、監督と心をひとつに結集しなければできない作品です。
試写室で、完成した映画を見たとき、全員で「やった!」と叫んだのでないか、というのは、ぼくの勝手な想像ですけど(笑)。
ストーリーは、あるようなないような、少女たちの語る<ものがたり>のように、希薄です。短いちょっとおもしろいシーンが、一見つながりなく、連続していきます。だから、話だけ追おうとするとわかりにくいので、あまり考えず、映像のつらなりに心をまかせながら、1シーン1シーンを、楽しんで見ていけばよいのではないでしょうか。
ぼくはこの映画のことを知らなくて、ラジオの小栗康平監督のインタビューを聞いたのが、見るきっかけになりました。
2005年の作品ですが、当時どのような評価を受けたのか、気になります。