かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

稲垣浩監督『無法松の一生』(1958年)

無法松の一生 [DVD]

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最初は小学生のころ、父に連れられて熊谷の映画館で見た。


封切りの年が1958年なので、まだわたしは9歳くらいだったのではないか、とおもう。それでも心から感動した。


無法松こと松五郎(三船敏郎)の、吉岡未亡人(高峰秀子)への秘めた思慕が、小学生のわたしに、十分理解できるはずがない。わたしは、この映画を、全編、松五郎が<ぼんぼん>と呼ぶ、吉岡少年の視点から見ていた。



運動会のかけっこで優勝するシーンでは、吉岡少年といっしょになってドキドキしながら応援した。


最高のクライマックスは、松五郎が、飛び入りで祇園太鼓を叩くシーンだろう。このシーンは映画を見たあとも、ずっとあとまで印象に残った。松五郎を演じた三船敏郎は、クラクラするほどかっこよかった。


ビートルズに夢中になったとき、楽器ではリンゴのドラムに一番心が惹かれたのは、この映画の祇園太鼓の感動があったからかもしれない。


そして小学生なりにさびしくおもったは、もう子どもではなくなった学生の吉岡少年が、松五郎から<ぼんぼん>と呼ばれることを恥ずかしくおもい、「おじさんに<ぼんぼん>というのをやめるようにいって」と母にたのむシーンだった。


心を寄せる吉岡未亡人から、
「もうぼんぼんと呼ばないでください」
「なんと呼んだらいいかのう」
「吉岡さん・・・とでも」


よそよそしい「吉岡さん」という呼び名をくちずさんで、さびしい表情をする松五郎が印象深い。


小学生のわたしは、このシーンで<ぼんぼん>の薄情を憎んだ。



そうした過去の想い出のシーンはいま見ても、どれも痛切に心に響いてくる。


むかし関心の薄かったのは、松五郎の吉岡未亡人への思慕の情だった・・・これだけは、当然だけど、いまのほうが深く共感できる。