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メジャー映画になってくると、以前ほど濃厚に山下敦弘の特徴をかんじないが、妻夫木聡と松山ケンイチが顔をつきあわせて、ゆっくり会話するようなリズム感覚は、この監督の持ち味のような気はした。
描かれている時代が60年代後半から70年代前半なので、その時代感覚を、監督はあちこちに散りばめている。
登場人物たちの壁には、ボブ・ディランのレコード・ジャケット、横尾忠則の複製絵画、映画化されたサガンの『悲しみよこんにちは』のポスターが貼られている。
主人公の若いジャーナリスト沢田(妻夫木聡)は、会社のデスクで、マンガ雑誌『ガロ』を読む。学生運動のリーダー梅山(松山ケンイチ)は、CCRの「雨を見たかい」を、生ギターで歌う。
そして、三島由紀夫の割腹自殺がなんどか話題にのぼる。
禁煙に対する意識が薄かった時代、登場人物は、アパートはもちろん、会社のなかでも、のべつまくなし、タバコを口にくわえて、煙を出している。
そういう時代だった。禁煙運動の広がりはまだ小さくて、だれもが遠慮なしに、タバコをふかしていた。
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ラストシーンがいい。
沢田が、東都新聞をクビになってから、何年かが経過している。
妻夫木演じる沢田は、柳町光男監督の『十九歳の地図』(1979年)の試写会にきている。試写が終わると、「キネマ旬報」の女性記者から飲み会へ誘われるが、仕事が残っているからと断る*1。
女性編集者の飲み会を断った沢田は、ぶらぶら歩いて、ひとりで居酒屋へ寄る。
そのあとが、よかった。妻夫木聡が絶妙の演技をみせるので、映画館で見てほしいですね。