映画『殺すな』。もともとは「時代劇専用チャンネル」で放送されたもの。
2月5日(土)。
「イオンシネマ板橋」(イオンの5階)で妻と待合わせ、井上昭監督『殺すな』を見る。
原作は、藤沢周平の『橋ものがたり』の一編。藤沢周平の傑作群のなかでも、短編集『橋ものがたり』は、とりわけ好きな作品。
小説の『橋ものがたり』について、「時代小説県歴史小説村」というサイトで、こんな解説をしています。
橋を舞台にした十の短編で構成されている短編集。それぞれに出会いと別れの場所になっている「橋」。この橋を印象的にかつ効果的に使っている優れた短編集である。
「約束」では小名木川の萬年橋、「小ぬか雨」では親爺橋、「思い違い」では両国橋、「赤い夕日」では永代橋、「小さな橋で」では名もない橋、「氷雨降る」では大川橋、「殺すな」では永代橋、「まぼろしの橋」では笄橋、鳥越橋、「吹く風は秋」では猿江橋、「川霧」では永代橋が重要な舞台装置になっている。
https://www.loungecafe2004.com/historical/fujisawa-shuhei-hashi-monogatari
いまは鉄の橋がかかり、中央区と江東区をたくさんのクルマが行き来している。
船宿の女将(おかみ)・お峯(安藤サクラ)は、お抱えの船頭・吉蔵(柄本佑)と駆け落ちする。
やむにやまれずの逃避行だったが、熱情は時を重ねて、少しずつ冷めてくる。
ふたりは身を隠し、裏長屋で日々を過ごしているが、変化のない貧しい暮らしにお峯は飽き飽きしている。華やかだった暮らしが恋しい。
しかし、吉蔵の方は、お峯への恋情が募るばかりで、ふたりの熱情の落差が、次第に関係を悪くさせて、言い争いがたえない。
吉蔵は、お峯の逃亡を恐れ、筆づくりの内職で生計をたてている浪人・小谷善左エ門(中村梅雀)にお峯の様子をそれとなく見ていてくれ、とたのむ。
この浪人にはむかし恋女房を、自分で手にかけてしまった過去があった。不義のうわさを聞き、真偽をたしかめることもなく、斬ってしまったのだ。
永代橋の向こう(中央区側)とこちら(江東区側)で、明暗が別れる。
お峯は、とうとう橋の向こう側へ逃げる。吉蔵はお峯を殺そうと追う。
ふたりを追いかける浪人は、吉蔵にむかって「殺すな!」と叫ぶ。
吉蔵がためらうあいだに、お峯の姿は、もう橋を渡って見えなくなっていた。
★
安藤サクラがきれい。彼女を思い焦がれる柄本佑が哀しい。若い男女を案じる中村梅雀のやさしさと、悔やんでも取り返しのつかない過去への想い。
この3人の心の動きを描いた作品で、藤沢周平の世界をうまく映像化している、とおもった。
時間とともに男女の恋情は、変わってしまう。むかしは堪えられたものが、堪えられなくなっていく。ふたりいっしょに熱が冷めればいいけど、一方だけが冷めると悲劇のもとにもなる。
哀切感のあるものがたりだが、描く目線はリアリズム。
また原作を読み直してみたい。