6月5日(月)。
朝「マクドナルド」でコーヒーを飲んでから、「イオンシネマ板橋」へ、高橋正弥監督の『渇水』を見にいく。
高橋正弥監督、はじめて知る名前。
日照り続きの夏、市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田(磯村勇斗)とともに来る日も来る日も水道料金が滞納する家庭を訪ね、水道を停めて回っていた。
妻(尾野真千子)や子供との関係もうまくいかず渇いた日々。県内全域で給水制限が発令される中、岩切は二人きりて家に残された恵子(山崎七海)と久美子(柚穂)の幼い姉妹と出会う。父は蒸発、一人で姉妹を育てる母(門脇麦)も帰ってこない。困窮家庭にとって最後のライフラインである”水”を停めるか否か。葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停水を執り行うがー。
(公式サイトの「ストーリー」より)
https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/
父も母も帰ってこない。小出家の姉妹は、ふたりだけで家にとりのこされている。
姉は小学校の高学年だろうか(夏休みなのか、小学校へ通うシーンはない)。
妹は、幼稚園にいってない。姉妹は、毎日仲良く家の周辺で遊んでいる。
姉の恵子は、家庭の状況をわかっているようだ。必要なこと以外、幼い妹には伝えず、自分のなかでとどめている。
妹の久美子は、無邪気そのもの。だから明るい。でも、次第に何かが起こっていることを感じている。
雨の降らないカラカラに渇いた町。
プールも給水制限で水が抜かれている。恵子と久美子は、そこに水が満たされているように想像しながら、水のないプールで游ぐ。
岩切と木田は、水道代を長らく支払わない家を一軒一軒訪問し、納金の意思がない家は、規則によって「停水執行」をしなければならない。それが繰り返される日々の業務。
集金は難儀する。居留守を使うもの、不審者を追い払うようにドアをバタンと閉めるもの。出てきたものの、掴みかからんばかりに激しく罵倒するもの……。
原作の方に、罵倒されたあと、こういう会話が出てくる。
(木田)「あれは完全にCクラスですね」
(岩切)「そんなところかな」
Aは恭順、Bはふてくされ、Cは反抗といった具合に、停水対象者に、岩切がつけた評価だった。
毎日毎日十数件「停水対象者」の家を訪問し、こんなやりとりをしていれば、心の中が渇いてくる。
しかし、小出家の場合、両親は不在がち。
「停水」で困るのは何の罪もない小出恵子と久美子の幼い姉妹だった。
しかし、岩切は定められた規則を執行する。
「停水」を執行する前に、岩切と木田は、小出家の浴槽やあらゆる容器に水をあふれさせ、それから「停水」を執行する。彼らが姉妹にしてあげられるせいいっぱいの支援。儚いが美しい。
★
小出恵子を演じた山崎七海がいい。捨てられた悲しみのなかでも、妹を守ろうとする強い意思をもった少女を演じた。
妹の小出久美子を演じた柚穂(ゆずほ)は、無邪気で可愛い。姉に守られて楽しく過ごしているけれど、どこかおかしいと感じているのが切ない。
つらくてもやらなければならない仕事と、人間として湧いてくる自然な感情ーーその狭間(はざま)に苦しむ。
映画のなかで(原作も)、何度か岩切と木田がいう。
「太陽も空気もタダなんだ。水もタダならいいのに」
門脇麦、尾野真千子も、出演するシーンは多くないけれど、存在感あり。
映画全体がいいと、ひとりひとりの出演者も輝くのかもしれない。
期待以上の収穫だった。
★
妻に「『渇水』よかったよ。『怪物』以上かもしれない」とメールする。その夜「『渇水』見てきた。感動したよ」という返信があった。