散歩と雑学の達人、植草甚一さん。
3月20日(日)は、終日雨。
この日、どこへも出かけず、家で過ごした。DVDで映画を見、本を3冊くらい取っ替え引っ替えして読んだ。
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1日中雨が降り続けるときに思い出すのは、植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』。

- 作者:植草 甚一
- 発売日: 2015/01/07
- メディア: 文庫
本の内容は忘れているのに、この本のタイトルだけが記憶に残っている。
植草甚一さんは、映画評論家であり、古本の蒐集家であり、散歩の達人。植草さんの散歩は、古本屋まわり。古本を買い漁り、その日の成果を、近くの喫茶店で珈琲をすすりながら、たのしむ。
植草さんの散歩に憧れたことがある。20代のころ。
植草さんを真似て、古本漁り。買いこんだ重い本を抱え、4畳半の木造アパートへ帰る。まもなく気がついた。自分の読む速度は、植草さんに遠く及ばない。アパートにたちまち未読本の山が積み上がった。
植草さんにはなれなかった、という苦い思い出(笑)。
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植草甚一さんの本『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』の話にもどそう。
このタイトルから、植草さんが、雨を理由に(めんどくさい外出の用事は、すべてカットして)、自宅でゆったり寝ころんで本を読む光景が浮かぶ。
で、この日はわたしも植草さんを真似ることにした(笑)。
コーヒーを傍の小机に用意して、ソファに寝ころんで本を読む。わたしは、電車内とか飲食店とかの外出時をのぞくと、すわって本が読めない。最初すわっていても、すぐゴロリンと横になりたくなる。
ときどき、起き上がってそばにある冷めたコーヒーを啜る。怠け者にとって、至福の時間‥‥。
ただ最近はミステリーをあまり読まなくなったので、植草氏と共通するのは読むのが「本」というだけ。
わたしはこの日、まず小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談・奇談』を読む。

- 作者:ラフカディオ・ハーン
- 発売日: 1956/11/10
- メディア: 文庫
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どこから読んでもいいし、短いので、いつでも好きなだけ読んでやめられる。
小泉八雲の『怪談』は、日本の古い怪談話を蒐集している。怨み、嫉妬、復讐のような動機のわかるものもあれば、ほとんどいいがかりではないか(笑)‥‥っておもうような理不尽な話もある。
むかしのひとも、妻ある男性が、美しい女性に幻惑されるし、妻が夫の浮気に嫉妬するし(「もう二度と結婚しない」といいながら約束を破って再婚した夫に、死んだ妻が怒り狂い、しかしその夫ではなく、新妻を呪い殺す話も出てくる)‥‥怪談の世界は、今の時代とそれほどかわらない。
怪談本といえば、平安時代に書かれた『今昔物語』や、江戸時代後期に書かれた上田秋成『雨月物語』がある。
どちらも苦手な古文なので、むかし現代語訳で読んだけれど、やっぱり一般の現代文とくらべると読みにくい。
『今昔物語』は、映画『男はつらいよ 噂の寅次郎』(第22作)に、こんな話が出てくる。
好きで好きで結婚した美しい妻が、先に死んでしまう。男は、妻のことがどうしても忘れられず、ひと目だけでもいい、もう一度妻の顔を見たいと、墓を掘り起こす。
「しかし、男の見たものは、あの美しい妻の顔とは似ても似つかない、腐りはてた、醜い肉の塊だった」(映画から)
男は、世の無常を感じ、その後僧侶になった‥‥。
この話、『今昔物語』のどこにあったのだろう?
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『雨月物語』は、上田秋成の本よりも、溝口健二監督の映画『雨月物語』のほうが、こころに残っている。この作品、歴史的傑作映画の1本。
出演は、森雅之、京マチ子、田中絹代。幻想的な美しい白黒映像を撮ったのは、宮川一夫カメラマン。
戦乱の時代。手柄をあげて貧しい生活から抜け出そうと、侍をめざした男は、妻を置き去りにして、戦場へ向かう。
戦場で、幸運にも切腹した敵大将の首をひろい、望み通りの富を得る。
ある時、男は、美しい女性と知り合い、饗応を受ける。
この女性は、織田信長に滅ぼされた一族の、亡霊だった。男は女性(亡霊)と夢のような日々を過ごす。
しかし、男は、幸福のなかにも、ふと、あのとき置き去りにした妻がどうしているか、気になってくる。
亡霊は、男を引きとめる。
やっと亡霊の手を逃れ、郷里にもどってみると、戦場になった村の家々は、焼け落ち、崩れ、荒れ果てていた。
しかし、ふしぎなことに、男の家は残っていて、焼け爛れた家のなかに妻がいた‥‥。男は、二度と妻を離すまい、とおもう。
翌朝、男が目覚めると、妻がいない。隣人に尋ねてみると、妻は侍たちに犯され、自害していたことを知る。
怪談映画というと、ドロドロしたした怨念の世界をイメージするけれど、『雨月物語』は、美しい。もともと怪談映画の範疇にはいらないのかもしれない。
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この日は、小泉八雲『怪談・奇談』のほか、NHK「100分DE名著」ブックスの「内村鑑三 代表的日本人」と、無政府主義者・伊藤野枝を主人公にした村山由佳の『風よ あらしよ』を読んだ。
夕方からは、コーヒーをお酒にかえて、DVDで森岡利行監督の映画『女の子ものがたり』を見る。よかった。小学生の子役で、三吉彩花が出ていた。背が高くて、笑うとエクボができる。いまの面影ありすぎ(笑)。