かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

「雨降りだから『怪談』でも勉強しよう」(3月20日)。

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散歩と雑学の達人、植草甚一さん。






3月20日(日)は、終日雨。


この日、どこへも出かけず、家で過ごした。DVDで映画を見、本を3冊くらい取っ替え引っ替えして読んだ。





1日中雨が降り続けるときに思い出すのは、植草甚一『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』











本の内容は忘れているのに、この本のタイトルだけが記憶に残っている。


植草甚一さんは、映画評論家であり、古本の蒐集家であり、散歩の達人。植草さんの散歩は、古本屋まわり。古本を買い漁り、その日の成果を、近くの喫茶店で珈琲をすすりながら、たのしむ。


植草さんの散歩に憧れたことがある。20代のころ。


植草さんを真似て、古本漁り。買いこんだ重い本を抱え、4畳半の木造アパートへ帰る。まもなく気がついた。自分の読む速度は、植草さんに遠く及ばない。アパートにたちまち未読本の山が積み上がった。


植草さんにはなれなかった、という苦い思い出(笑)。





植草甚一さんの本『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』の話にもどそう。


このタイトルから、植草さんが、雨を理由に(めんどくさい外出の用事は、すべてカットして)、自宅でゆったり寝ころんで本を読む光景が浮かぶ。


で、この日はわたしも植草さんを真似ることにした(笑)。


コーヒーを傍の小机に用意して、ソファに寝ころんで本を読む。わたしは、電車内とか飲食店とかの外出時をのぞくと、すわって本が読めない。最初すわっていても、すぐゴロリンと横になりたくなる。


ときどき、起き上がってそばにある冷めたコーヒーを啜る。怠け者にとって、至福の時間‥‥。


ただ最近はミステリーをあまり読まなくなったので、植草氏と共通するのは読むのが「本」というだけ。


わたしはこの日、まず小泉八雲ラフカディオ・ハーン『怪談・奇談』を読む。





怪談・奇談 (角川文庫)

怪談・奇談 (角川文庫)







どこから読んでもいいし、短いので、いつでも好きなだけ読んでやめられる。


小泉八雲の『怪談』は、日本の古い怪談話を蒐集している。怨み、嫉妬、復讐のような動機のわかるものもあれば、ほとんどいいがかりではないか(笑)‥‥っておもうような理不尽な話もある。


むかしのひとも、妻ある男性が、美しい女性に幻惑されるし、妻が夫の浮気に嫉妬するし(「もう二度と結婚しない」といいながら約束を破って再婚した夫に、死んだ妻が怒り狂い、しかしその夫ではなく、新妻を呪い殺す話も出てくる)‥‥怪談の世界は、今の時代とそれほどかわらない。


怪談本といえば、平安時代に書かれた『今昔物語』や、江戸時代後期に書かれた上田秋成雨月物語がある。


どちらも苦手な古文なので、むかし現代語訳で読んだけれど、やっぱり一般の現代文とくらべると読みにくい。


『今昔物語』は、映画男はつらいよ 噂の寅次郎』(第22作)に、こんな話が出てくる。

好きで好きで結婚した美しい妻が、先に死んでしまう。男は、妻のことがどうしても忘れられず、ひと目だけでもいい、もう一度妻の顔を見たいと、墓を掘り起こす。


「しかし、男の見たものは、あの美しい妻の顔とは似ても似つかない、腐りはてた、醜い肉の塊だった」(映画から)



男は、世の無常を感じ、その後僧侶になった‥‥。


この話、『今昔物語』のどこにあったのだろう? 







雨月物語は、上田秋成の本よりも、溝口健二監督の映画『雨月物語のほうが、こころに残っている。この作品、歴史的傑作映画の1本。


出演は、森雅之京マチ子田中絹代。幻想的な美しい白黒映像を撮ったのは、宮川一夫カメラマン。







『雨月物語』(Ugetsu)/1953/予告編





戦乱の時代。手柄をあげて貧しい生活から抜け出そうと、侍をめざした男は、妻を置き去りにして、戦場へ向かう。


戦場で、幸運にも切腹した敵大将の首をひろい、望み通りの富を得る。


ある時、男は、美しい女性と知り合い、饗応を受ける。


この女性は、織田信長に滅ぼされた一族の、亡霊だった。男は女性(亡霊)と夢のような日々を過ごす。


しかし、男は、幸福のなかにも、ふと、あのとき置き去りにした妻がどうしているか、気になってくる。


亡霊は、男を引きとめる。


やっと亡霊の手を逃れ、郷里にもどってみると、戦場になった村の家々は、焼け落ち、崩れ、荒れ果てていた。


しかし、ふしぎなことに、男の家は残っていて、焼け爛れた家のなかに妻がいた‥‥。男は、二度と妻を離すまい、とおもう。


翌朝、男が目覚めると、妻がいない。隣人に尋ねてみると、妻は侍たちに犯され、自害していたことを知る。


怪談映画というと、ドロドロしたした怨念の世界をイメージするけれど、『雨月物語』は、美しい。もともと怪談映画の範疇にはいらないのかもしれない。



この日は、小泉八雲『怪談・奇談』のほか、NHK「100分DE名著」ブックスの内村鑑三 代表的日本人」と、無政府主義者伊藤野枝を主人公にした村山由佳の『風よ あらしよ』を読んだ。




夕方からは、コーヒーをお酒にかえて、DVDで森岡利行監督の映画『女の子ものがたり』を見る。よかった。小学生の子役で、三吉彩花が出ていた。背が高くて、笑うとエクボができる。いまの面影ありすぎ(笑)。







映画『女の子ものがたり』トレーラー