10月19日(水)。
「池袋シネマ・ロサ」へ、高橋伴明監督の『夜明けまでバス停で』を見にいく。
久しぶりだったので、池袋駅を降りてから道に迷い、遠回りしてしまった。
2020年冬。幡ヶ谷のバス停で寝泊まりする、あるひとりのホームレスの女性が、突然襲われてしまう悲劇があった。
非正規雇用や自身の就労年齢により、いつ自分に仕事がなくなるか分からない中、コロナ禍によって更に不安定な就労状況。そして自らが置かれている危機的状況にもかかわらず、人間の「自尊心」がゆえに生じてしまう、助けを求められない人々。本作は、もしかしたら明日、誰しもが置かれるかもしれない「社会的孤立」を描く。
(公式サイトより)
https://yoakemademovie.com
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昼間はアトリエで自作アクセサリーを販売し、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働く北林三知子。しかし突然訪れたコロナ禍により、仕事も住む家も失ってしまう。新しい仕事は見つからず、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。行き場をなくした彼女がたどり着いたのは、街灯の下にポツリとたたずむバス停だった。
(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/97255/
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結論からいえば、いい映画だった。
三知子(板谷由夏)は、コロナ禍で2つの仕事と住まいを失う。
自尊心が強いので、生活保護を受ける、という考えがわかない。
路上で暮らすようになるまでは、あっという間のことだ。
キャリアケースに所持品をいれて、公衆トイレで顔や軀を洗い、昼は公園をさまよい、夜は誰もいなくなったバス停のベンチで寝る。
きのうまでの生活がウソのようにあっけなく崩れ去る。
安倍晋三の庶民の苦しみなど意にもかけないあっけらかんとした顔(独断でいえば、わたしには安倍から人間味を感じられない)。
菅義偉は「自助・共助・公助」を街角のスクリーンから呼びかける。
三知子は、街を公園を、キャリアケースをころがしながら、その日の居場所を探す。
高橋伴明の、国民の貧困を救おうとしない政府への怒りが画面から伝わってくる。
気のめいる前半だが、ホームレスを演じる根岸 季衣(ねぎし・としえ)や柄本明が登場するあたりから、じんわりと可笑しみも出てくる。
ウソかホントか、柄本明扮するホームレスは、むかし権力に怒りの爆弾をしかけた男で、みんなから「バクダン」と呼ばれている。
根岸季衣は、厚化粧のホームレスおばさんを演じている。
見かけはケバイ女だが、列に並ぶのをためらっている三知子の分まで、配給の食べ物をもらってきてくれる優しさがある。
三知子は、「私は真面目に生きてきました。一度は逆らってみたいんです」といい、「バクダン」に、爆弾の作り方を教えてください、とたのむ。
そしてついに、作ったばかりの爆弾を街なかのビルに仕掛けるのだが‥‥。
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板谷由夏は、ホームレス役でもスタイルがよくて美しい。店長を演じた大西礼芳(おおにし・あやか)という女優ははじめて見たが、きれい。
会社の経営悪化による従業員解雇。マネージャーの三浦貴大は従業員の苦しみなど気にもとめないが、彼女は、解雇されたひとたちのその後に、思いを馳せる。
脇役の出演者たち。
三浦貴大が俗物の嫌な男を演じている。「ホームレスは臭くて何の生産性もない」とテレビから語るのは柄本佑。筒井真理子は、わたしの好きな女優だ。
それと、フィルピン出身の女優・ルビー・モレノが出ている。
1993年製作の傑作映画、崔洋一監督『月はどっちに出ている』(1993年、キネマ旬報第1位)で、コミカルなヒロインを演じたあのルビー・モレノが、おばちゃんになって(笑)。
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救いのない映画のようでいて、見た後は決して陰鬱な気分にはならない。
飄々とした柄本明が救い。いい味を出す。
実際に起きた幡ヶ谷のホームレス殺害事件を素材にしながら、事件の結末を踏襲せず、観客をホッとさせてくれる。
それも、ほんのちょっとの匙加減で。
ベテラン監督の手腕だ。
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帰り、適当な居酒屋を探しながら駅方向へ歩く。
このへんは夜になると飲み屋街というより、ケバケバしい歓楽街になるので、結局そのままアパートのある駅まで引き返し、地元の居酒屋へ寄る。