かぶとむし日記

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山田洋次の清貧時代劇シリーズ2作〜「たそがれ清兵衛」と「隠し剣鬼の爪」

隠し剣鬼の爪池袋の新文芸座で、山田洋次の時代劇を2本見た。

山田洋次監督「隠し剣鬼の爪
山田洋次監督「たそがれ清兵衛

2本とも原作は藤沢周平だ。内容はとてもよく似ている。これは意図してのことで、偶然似てしまったわけではないだろう。

侍社会を山田洋次監督は、現代のサラリーマン社会にだぶらせて描いているようだ。しかし、生命の価値が軽い侍社会の方が、現代よりもはるかに厳しいことも描いている。

下級武士の日常を丁寧に描いているのは山田洋次監督らしくて好きだ。こういうところをおざなりにする粗雑な時代劇を見ると、よけい山田洋次監督の誠実さが感じられる。史実に忠実かどうか、ということではない。作品のなかで作者が描きたい世界が、丁寧に描かれているかどうかで、フィクションのなかではそれがリアリティだと思う。仮に誰も知らない未来社会を描いても、山田洋次監督なら日常の手触りをおろそかにしないのではないかな、と思う。

「隠し剣鬼の爪」の松たか子は悪くなかったが、「たそがれ清兵衛」の宮沢りえにはかなわなかった。聡明な武士の娘朋江に、宮沢りえは最高のリアリティを与えているようにみえた。朋江が清兵衛に、果し合いの身支度をさせるところはクライマックスだった。手馴れたようにタスキをかける姿が凛々しい。感情を抑えていた朋江が、果し合いから帰った清兵衛を見てはじめて泣く姿がとっても美しい。