かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

「バングラデッシュ・コンサート」再見!!

映画「バングラデッシュのコンサート」を見に、ぼくが当時上映された有楽町スバル座に通いつめたのは、1972年だったでしょうか。

ジョージ・ハリスンリンゴ・スターの共演、レコードではすでに前からファンだったのに、演奏シーンを見たことなかったボブ・ディランエリック・クラプトンの雄姿をついに目撃‥‥などなど、見どころはいっぱいでした。

今回DVDとCDが画質、音質ともによくなって発売。うれしいのは、DVDには「イフ・ノット・フォー・ユー」(ジョージ・ハリスンボブ・ディランのリハーサル)、「ラヴ・マイナス・ゼロ」(ボブ・ディラン、昼の部の演奏)が追加されていることです。さらには、当時の出演者の回想が収録されていて、当時はほとんど知らなかったコンサート成立までの概要が明らかになりました。

■「イフ・ノット・フォー・ユー」

このボブ・ディランの作品は、ディラン自身とジョージがほぼ同時期にアルバムに収録しています。ボブ・ディランは『新しい夜明け』(1970年)、ジョージ・ハリスンは大作『オール・シングス・マスト・パス』(1970年)です。聴き較べると、二人の資質の違いが明らかになっておもしろいのですが、さらに、ボブ・ディランの3枚組の『公式海賊盤』には、二人の共演する録音も収録されていました。

そして‥‥

バングラデッシュのコンサート」のボーナス映像では、それを二人が演奏しているリハーサル・シーンが見られます。最終的に、コンサートで演奏されなかったように、二人の演奏はまとまりません(笑)。思うようにいかないせいか、二人は厳しい表情で音をあわせながらも、途中で目をあわせてニッコリ(苦笑?)、二人の自然な表情がとても美しい映像です。公開から30年以上もたってこんなシーンが見られるなんて‥‥。

■「ラヴ・マイナス・ゼロ」

原曲は、アルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』(1965年)に収録された美しいバラードです。ディランの作曲の話題になると、歌詞ばかりがとりあげれますけど、この曲を聴けば、ボブ・ディランが素晴らしいメロディ・メーカーでもあることに気づくはずです。でも、それを美しく歌わないのが、ボブ・ディラン(笑)。好きです。

昼の部のステージ映像ですが、ディランがこの曲を演奏することにしたのを、ジョージ・ハリスンリンゴ・スターレオン・ラッセルは、きっと直前になって知らされたのでしょう。見ていると、リハーサル風景のように、3人は後ろに集まって各パートを相談しています(笑)。勝手に歌っているのはボブ・ディランだけ(笑)。

彼らが演出されない、いつも自分を正直に表現するミュージシャンであることはこんな演奏風景を見ていても、感じられます。「ラヴ・マイナス・ゼロ」は、演奏にまとまりがつかないまま終わったようで、夜の部ではカットされてしまいます。

■出演者の回想映像

 
ぼくは、このフィルムを見るまでもなく、「バングラデシュ・コンサート」は、ジョージ・ハリスンのパーソナル的要素が強いとおもっていました。それは、大体あたっていたようです。

パキスタンに親戚のおおいラヴィ・シャンカールは、ジョージに、国の苦境を訴えました。ラヴィは、ジョージが共演してくれて、コンサートをひらき、そこで集まった資金をバングラデッシュに送金できれば、と考えたのです。しかし、ジョージはラヴィの相談を受け、やるならもっと助っ人を集め、大きな資金を集めようと考えました。ジョージのコメントによれば、「ジョンのやり方にならった」ということです。つまり、ジョンもビートルズ知名度を利用して、反戦運動を展開したように、ジョージも(この慎ましいアーティストには珍しいことですが、それだけ真剣だったのでしょう)、自らのビートルズ人気をコンサート資金調達に適用しようと考えたわけです。

ジョージは人任せにせず、自分で電話をし、ミュージシャンに出演を打診します。まずはジョージと親交の厚いリンゴ・スター(もう一人のビートル)、レオン・ラッセルビリー・プレストンらが集まってきます。問題なのは、ドラッグ中毒で静養中だったエリック・クラプトンと、バイク事故でしばらく活動を停止していたボブ・ディランの出演でした。彼らが登場するかどうか、ジョージには直前まで確信が持てませんでした。結局、曲折を経て、二人とも直前に出演を決定することになります。

出演者たちは、チャリティの主旨に共感した、というより、親友ジョージ・ハリスンのよびかけに応えました。ジョージのために、集まったのです。

彼らは素晴らしい演奏で、ジョージの要望に応え、コンサートを成功させました。ビートルズ時代、けっして好んで最前線には立たなかったジョージ・ハリスンは、見事にコンサートの進行役をつとめました。それも、彼らしい謙虚な姿勢で‥‥。

コンサートの出演者たちは、ジョージから直接電話をもらったこと、ジョージが真剣だったこと、短期間にあれだけのコンサートを実現させたのはジョージだから‥‥など、ジョージ・ハリスン人間性について‥‥回想しています。

ジョージ・ハリスンという謙虚で、信念に満ちたひとりのアーティストが、友情で実現させたパーソナルなチャリティ・コンサート。それが「バングラデシュ・コンサート」です。彼らは、「競演」ではなく、「共演」しました。各出演者をもりたてながら、自分の出番以外は謙虚に裏方に回り、コンサートの役割を果たしました。

ジョージは、「なぜこのコンサートを開催したのか」と問われ、ストレートに「友達(ラヴィ・シャンカール)に頼まれたからです」と答えています。ズバリ、ジョージの言葉が「バングラデッシュ・コンサート」の本質を言いえているのではないでしょうか。

それにしても、白いスーツを着たジョージの神々しい映像を見ていると、このジョージ・ハリスンが、いまは、この世界にいなくなってしまったことにさびしさをおぼえます。