周防正人監督10年ぶりの新作。見てきました。まだ公開されたばかりなので、細かいストーリーは書きません。ただタイトルからもわかるように、痴漢の犯人と間違えられた青年が、冤罪(えんざい)のまま法廷で裁かれるという話で、それは見る前から誰でもわかりますね(笑)。だから、ストーリーでハラハラする作品ではないわけです。
裁判劇に属しますけど、裁判が二転三転して、息詰まる検事と弁護士の闘いが見せ場かというと、それも多少はありますが、映画が描く視点はとても冷静です。手に汗握る裁判劇とも少しようすがちがいます。
つまり痴漢の疑いをかけられた青年が、あれよあれよと留置されて、犯人として仕立てられていく様子を、入念な取材をもとに、精密に再現させている映画といえばいいのか?
では、そんな殺人も起きないどんでん返しもない映画が果たしておもしろいのか、ということですが、、、
2時間以上目が離せないほどおもしろいのです。ことさらな人物描写の誇張もなく、ドラマティックに仕立てた要素もなく、淡々と予想通りに話は展開していくのに、くいいるように見いってしまいました。少しもダレません。この力は何でしょうか。
痴漢行為があったのか、なかったのか、裁かれるのはひとりの青年ですが、実は、この映画から裁かれるのは「裁判構造のありかた」そのものです。ぼくらは、これから痴漢犯罪の捜査にも裁判にも、もっと慎重な眼を向けることになるとおもいます。
役所広司、加瀬亮、瀬戸朝香、斉藤達雄など……俳優のおさえた演技もすばらしく、映画のほんとうのおもしろさを堪能いたしました。