
- 作者: ジェイムズ・ハドリー・チェイス,小西宏
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2018/06/21
- メディア: 文庫
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先日、ブノワ・ジャコー監督の映画『エヴァ』を見た。原作は、ハドリー・チェイスの『悪女イヴ』。20代のころ、ハドリー・チェイスを愛読した時期があったので、どんなふうに映画化されているのかたのしみに見にいったけれど、あまりいいとはおもわなかった。主演のイヴが、歳をとりすぎていて、若い男性を虜にする設定に、ムリがあった。
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それで、ひさしぶりに原作を読んでみたが、これがおもしろい。
亡くなる寸前に老作家が書き残した戯曲を、若い作家志望の青年が、盗作どころか、まるごといただいて、自分の名前で発表する。
この戯曲が評判をよび、青年は一躍人気作家に。戯曲の上演は、ロングランになり、ハリウッドで映画化の話も起こる。青年の生活は、激変した。
しかし、その後デビュー作の余波で小ヒットの小説は出したものの、期待される戯曲の新作が青年には書けない。名声と実力の落差で焦る青年の姿が、緊迫した迫力で書かれていて、原作は読み応えがある。ところが、この青年の焦りが、映画ではそれほど迫ってこない。
成功した青年は、映画人としても才能豊かな美しい女性と知り合う。まさに、誰もがうらやむような理想的な恋人を手に入れる。
それなのに、彼はある日知り合った娼婦イヴ(映画では、「エヴァ」)の官能的な魅力に惹きつけられる。そっけない、冷淡そのもの、男を崩壊させるしかない、イヴに溺れていく。
美しい恋人をおいても、なぜ青年が娼婦イヴを求めてやまないのか? これが映画では十分になっとくできない。
設定は、原作も映画も同じ。
しかし、イヴと青年の退廃的な関係を、小説は執拗に描いているのに、映画はダイジェスト版のようだ。
映画に中途半端な印象をもったひとには、ぜひ原作をすすめたい。