かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ハドリー・チェイス作『悪女イヴ』を読む。



先日、ブノワ・ジャコー監督の映画『エヴァ』を見た。原作は、ハドリー・チェイスの『悪女イヴ』。20代のころ、ハドリー・チェイスを愛読した時期があったので、どんなふうに映画化されているのかたのしみに見にいったけれど、あまりいいとはおもわなかった。主演のイヴが、歳をとりすぎていて、若い男性を虜にする設定に、ムリがあった。


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それで、ひさしぶりに原作を読んでみたが、これがおもしろい。


亡くなる寸前に老作家が書き残した戯曲を、若い作家志望の青年が、盗作どころか、まるごといただいて、自分の名前で発表する。


この戯曲が評判をよび、青年は一躍人気作家に。戯曲の上演は、ロングランになり、ハリウッドで映画化の話も起こる。青年の生活は、激変した。


しかし、その後デビュー作の余波で小ヒットの小説は出したものの、期待される戯曲の新作が青年には書けない。名声と実力の落差で焦る青年の姿が、緊迫した迫力で書かれていて、原作は読み応えがある。ところが、この青年の焦りが、映画ではそれほど迫ってこない。


成功した青年は、映画人としても才能豊かな美しい女性と知り合う。まさに、誰もがうらやむような理想的な恋人を手に入れる。


それなのに、彼はある日知り合った娼婦イヴ(映画では、「エヴァ」)の官能的な魅力に惹きつけられる。そっけない、冷淡そのもの、男を崩壊させるしかない、イヴに溺れていく。


美しい恋人をおいても、なぜ青年が娼婦イヴを求めてやまないのか? これが映画では十分になっとくできない。


設定は、原作も映画も同じ。


しかし、イヴと青年の退廃的な関係を、小説は執拗に描いているのに、映画はダイジェスト版のようだ。


映画に中途半端な印象をもったひとには、ぜひ原作をすすめたい。