大正初期の作家島田清次郎の同名小説を原作に「美徳のよろめき」の新藤兼人が脚色、「夜の蝶」の吉村公三郎が監督した文芸篇。撮影は「地獄花」の中川芳久。主演は「くちづけ(1957)」のコンビ川口浩と野添ひとみ、「太夫さんより 女体は哀しく」の田中絹代、「夜の鴎」の佐分利信、「ひかげの娘」の香川京子。ほかに川崎敬三、月田昌也、三宅邦子、新人安城啓子、小沢栄太郎、信欣三など。色彩は大映カラー。
(「goo映画」解説より)
大正時代の金沢が舞台。大正時代の町並みと学生、芸者の風俗を見ることができる。夢の中のように美しい、古き日本・・・一番のみどころは、それかもしれない。
芸者屋に、母(田中絹代)と寄宿しながら学校へ通う貧しい平一郎(川口浩)は、社長令嬢の和歌子(野添ひとみ)に恋をする。和歌子も、平一郎に好意を寄せ、貧富の差を越えて相思相愛の仲になる。
この二人の許されない恋愛に、ひそかに平一郎へ好意を持ちながらも、借金から芸妓に売られ、めかけとなって東京へいく冬子(香川京子)が、少しだけからむ。
可憐な冬子をめかけにするのは、佐分利信。小津安二郎の『彼岸花』と同じように自然体でしかしゃべらないのに、あちらでは、重厚で誠実な父、こちらでは俗物の臭気がムンムン漂ってくる大物。うまいな。こうでなくちゃ(笑)。
薄倖で可憐な香川京子も印象に残る。
しかし、全体は通俗的なメロドラマ以上のものではない。
平一郎と和歌子は、貧富の差を乗り越えることができず、よくある列車での別れが、悲恋のエンディングとなる。
ただ、最後に畑のなかを走って平一郎を見送りにくる和歌子を、列車のなかの平一郎が気づかないまま終ってしまうのは、ちょっとおもしろかった。