映画化もされて話題になった『告白』で、鮮烈にデビューした、湊かなえの新作。前作は、いじめや家庭内暴力が複合的にまじって構成されていたけれど、今回は家庭内暴力が中心。
「一戸建ての家を持ちたい」・・・そんなふつうのサラリーマン家庭の主婦の願望がかなう。しかも、小さな家とはいえ、憧れの高級住宅地に。
彼女がパートで働いても、生活を維持していくのは厳しかったが、それでも娘が私立中学の受験に失敗するまでは、まだよかった。
受験の失敗から娘は変り、主婦が、せっかく手にした幸せが、狂いはじめる。
娘は、新しい学校でいじめを受けると、「おまえのせいだぞ」と、母を口汚くののしり、手当たり次第にものをほうりなげる。母は、狂いだした娘を、<獣だ>、とおもう。
そんななか、向かいの一家で、殺人事件が起る。静かで優しい、あの奥さんが、医者の夫を殺したという。
幸せを絵に描いたような家族に何があったのか?
本当に、あの優しそうな奥さんが、自分の夫を殺したのか?
★
湊かなえが、『告白』でみせた語りの巧さは、この作品でも生きいて、どんどん読まされてしまう。ただ、前作ほどの迫力はない。物語りの展開も、後半少し停滞ぎみになる。
ただこの作者は、「学校の崩壊」「家庭の崩壊」というような現代的なテーマを描写すると、独特の迫力がある。だから、サスペンス性が弱くても、おもしろく読める。
しかし、この作品で描かれる「家庭の崩壊」というテーマは、あくまでサスペンスの素材としてあるので、問題の追及・分析に期待を寄せると、ものたりない気がするかもしれない。