かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

今年は、日本映画のあたり年?〜映画『悪人』(上映中)

李相日(リ・サンイル)監督『悪人』。原作は、吉田修一


観客をグイグイひっぱっていく力強い作品です。いい映画というのは、冒頭から映像がみなぎるような緊迫感で観客を圧倒してくるものですけど・・・それが実感できるはじまりでした。



深津絵里モントリオール世界映画祭で、主演女優賞を受賞して話題になりました。生まれたときから地元に住んで、男友達と付き合ったこともない女性が、出会い系サイトからメールしたのが妻夫木演じる青年でした。


妻夫木聡もいいです。妻夫木は、解体作業を職業とする青年の、暗い、複雑な心境をきめこまやかに演技して、深みがありました。二枚目ですけど、うまい役者なんですね。


吉田修一の小説には、肉体労働を職業にしている青年が登場することがおおいのですが、それがいいんです。


くちべたで、オシャレがいたについてなくて、ちょっとダサい。しかし、きつい労働で鍛えた贅肉のない肉体は、むしろ知的な女性を惹きつけてしまうような、本人が意図しない性的な魅力を発散している、、、



そんな、現代青年の一般的イメージから少し遠い、小説にあまり登場しないタイプの主人公が、しばしば吉田修一の小説には出てきます。


そういう主人公を演じるのは、現代の若い俳優にはむずかしいとおもいますが、妻夫木聡は、すごくがんばっているとおもいました。



脇役に樹木希林柄本明、このふたりもいいですよ。



樹木希林は、殺人者の育ての親。田舎のいわゆるふつうのおばあちゃんを、ふつうに演じていて。それが凄い。どう凄いかは、まだ公開されたばかりなので、ご自身の目でたしかめてください。まさに鬼気迫る演技です。



柄本明は、娘を殺された父親の役。出会い系で会った男に、セックスを提供して金をせびり、自分では、ちゃっかり玉の輿にのろうという<尻の軽い女>が娘。


しかし、そういうどうしようない娘でも、父親が娘を思う気持ちに変りはない。柄本明は、娘に屈辱を与え、死の原因をつくった青年を追い詰めていく。



李相日(リ・サンイル)監督は、『フラガール』をつくった監督なんですね。正攻法で、力のある監督だとおもいました。『悪人』は、李相日監督の代表作のひとつになるとおもいます。


最近の日本映画は、見る作品見る作品がすばらしく、あるいは今年は邦画のあたり年かもしれない、とおもったりしています。後半期に公開される映画もたのしみになってきました。