東京では渋谷ユーロスペースの単館上映なので、ひさしぶりに渋谷へ。
ひとの流れをかきわけるようにして、東急本店横から少し路地へはいった、ユーロスペースへいく。
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海炭市は、架空の街だが、撮影はすべて函館でおこわなれたようだ。函館市民の全面的な協力のもとに製作されている。
函館の街の風景、空気、そして、そこに住むひとたちが映される。海、造船所、路面電車、雪のかきわけられた道路など。
オムニバス形式だが、どの登場人物も海炭市に住んでいるから、街中で、都電やバスで微妙にすれちがう。
5つの挿話は、どれも暗い。
- 造船所の人員整理で、仕事を失った兄妹(竹原ピストル、谷村美月)は、小銭をかきあつめて初日の出を見にいく。
- 立退きを迫られた老婆(中里あき)は、それを拒否して、猫と暮らしているが、その猫が突然姿を消してしまう・・・。
- プラネタリウムで働く男(小林薫)は、妻からも子どもからも無視されている。妻は水商売で働きはじめてから変ってしまった。時々外泊もする。子どもは、父が話しかけても、口をきかない。
- 父親からガス屋を引き継いだ若社長(加瀬亮)は、事業がうまくいかない。いつも苛立ち、従業員を叱り、妻を殴る。その妻は先妻が残した子どもを、夫に隠れて虐待している。
- 仕事で東京からふるさとへ帰ってきた青年は、路面電車の運転士として働く父親と会おうともしない。むかしのしこりが消えていない。心が晴れないまま、小さなバーで夜をすごす。
海炭市の街の風景を映しながら、こんな話が描かれ、街には雪が降り、路面電車が走っていく。
上映時間が長いし(152分)、内容が暗いので少し疲れた。
しかし、プラネタリウムで働く男(小林薫)の第3話から、話に動きが出てくるので、惹きこまれていく。小林薫をひさしぶりに見たが、うまい。妻から子どもからも見放された男の寂しさを、しっかりと見せてくれる。
第4話では、加瀬亮がいままでの繊細な青年役とはうってかわって、妻に暴力をふるう横暴な若社長の役を演じる。この陰険な役を、少しもオーバーでなく、自然に演じていて、すごい!
前々から若手俳優で一番好きな男優だったが*1、こんな役柄も自然にこなすのか、と惚れ惚れしてしまった。脇役で受けの演技もうまいし、こういう、ついついオーバーアクションになりがちな役柄でも、自然に演じ分けてみせる。
疲れるが、見終えて充足感があった。いい作品だし、監督の力量も感じられる。ただ、これが単館ロードショーなのがさびしい。DVD鑑賞では、152分の集中力が持続しにくい作品かもしれない。