かぶとむし日記

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新田匡央著『山田洋次〜なぜ家族を描き続けるのか』


山田洋次―なぜ家族を描き続けるのか

山田洋次―なぜ家族を描き続けるのか




図書館で見つけて読んだが、予想以上におもしろかった。


山田洋次監督『おとうと』の撮影現場を、3ヶ月に渡って取材。撮影現場の山田洋次監督とスタッフや俳優とのやりとりを克明にレポートしている。


黒澤明成瀬巳喜男小津安二郎溝口健二などの撮影現場は、本で読んだり、参加したスタッフの証言を聞いたりで、雑学的に知っていることもあるけど、山田洋次監督については作品はずいぶん見ているのに、どのように演出して、どのように撮影していくのか、まるで知らない。それが、だいぶ明らかになってきた。


著者の現場レポートは迫力がある。監督と俳優、そのやりとりに意識を集中させる現場のスタッフ・・・彼らの丁々発止のやりとりが詳細に再現されている。


小林稔侍、蒼井優石田ゆり子などに、粘り強く演出する山田洋次監督の姿が目に浮かんでくるようだ。



おとうと <通常版> [DVD]

おとうと <通常版> [DVD]




この本に刺激されて、著者が細かく触れている撮影シーンが最終的にどのように映像として完成したのかを確認するため、DVDで、もう一度『おとうと』を見た*1


笑福亭鶴瓶が、小春(蒼井優)の結婚式をぶちこわすシーンは、『男はつらいよ』第1回の、さくらのお見合いを、寅さんがメチャクチャにするあの場面を連想させる。ここでの鶴瓶は、渥美清に負けていない。


著者は、演技になかなか満足しない山田洋次監督が、笑福亭鶴瓶の演技を、笑みを浮べて見ていたことをいい、スタッフから、ああいう監督の表情は渥美さんのとき以来だ、、、という証言も引き出している。


ダメな弟に手を焼く吉永小百合もいいし、若手の実力派俳優、蒼井優加瀬亮は、いつもながら安心して見せてくる。


それから、脇役では、小日向文世石田ゆり子が、自然な演技でよかった。


好きなシーンがある。


弟(笑福亭鶴瓶)に130万円貸したという女が、吟子(吉永小百合)を訪ねてくる。派手な格好をした女だが、吟子は話を聞いて、女がウソをついているのではないことを直感する。


吟子は、なけなしの130万円を銀行からおろし、女に渡す。


そういう緊迫したシーンのところで、半分ボケのはいった義母(加藤治子)が、「どうしたの」、「なにがあったの」としつこく言い寄ってくる。


吟子は、いま義母をいちいち相手にするだけの心のゆとりがない。


「おばあちゃんは、向こうへいっててください」
「そんなにわたしが邪魔なの」と義母が憤然とすると、
吟子(吉永小百合)は、「うん」とうなづく。


この吉永小百合の「うん」が、前回も今回も、とってもよかった(笑)。

*1:最初の感想は、こちら