かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

津村紀久子著『とにかくうちに帰ります』と映画「女優 嵯峨三智子」の特集(12月4日)。

12月4日、月曜日。「シネヴェーラ渋谷」で、嵯峨三智子の特集をやっているので見にいく。「シネヴェーラ渋谷」という映画館へ行くのははじめてなので、場所を検索してみたら、「ユーロスペース」と同じビル。「ユーロスペース」は3階で、「シネヴェーラ渋谷」は4階だとわかった。


11時上映スタート。ネット予約ができないのですこし早めに着いて、近くの喫茶店で、津村紀久子著『とにかくうちに帰ります』(電子書籍)を読む。


とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)


前半は、連作短編で、オフィスで働く複数の女性たちの職場での日常が軽やかに書かれていて、おもしろい。ひとりひとりの女性の描きわけも、露骨でなくて、視線がやさしい。


後半は、タイトルになっている「とにかくうちに帰ります」。これは、前半の連作短編とは別個の作品。


大雨が降るから早く帰るように、と会社からも早帰りのお達しが出ていたのに、少し遅れて出たために、大雨のなかを歩くはめになった何人かの「冒険」が描かれている。すごい雨のなかを歩かなければならなかった、そういう経験はだれでもあるので、自分に引き寄せて、共感しながら読めるのではないか。この作品もおもしろかった。



嵯峨三智子は、山田五十鈴の娘さんで美人女優だった、というぼんやりした記憶しかない。小学生のころ、時代劇の出演作を見た、という記憶はあるけれど、それ以上ハッキリしない。プロフィールをみると、私生活にいろいろなスキャンダルめいたことがあって、ある時期から女優を廃業したらしい。


ただ、パンフレットの表紙の写真がすごくきれいなので、あらためて彼女の映画を見てみようか、という気になった。



パンフレット表紙の嵯峨三智子。




瑞穂春海監督『いらっしゃいませ』(1955年)


出演=森繁久彌香川京子、嵯峨三智子、中北千枝子。その他、東野英治郎浪花千栄子などいまや懐かしい脇役役者が出ている。



『いらっしゃいませ』の森繁久彌と嵯峨三智子。

売れない画家の森繁が41歳でデパートに初就職したところ、何故か同僚の香川京子、専務の二号さん・嵯峨三智子、下宿の未亡人・中北千枝子から言い寄られる羽目になり・・・。当時の最先端であったキラキラしたデパートがナレーターのロマンチック・コメディ。


(「女優 嵯峨三智子」のパンフレットの解説から)


見かけは冴えない中年男の森繁が、「モテ期」にはいったのか、女性たちに気にいられてしまう。おちゃめで可憐な香川京子、妖艶な魅力を発散する嵯峨三智子、親切に身の回りを世話してくれる中北千枝子。まんざらでもない気持ちがありながら、どれにも距離を置いているうち、三人の女性たちは、別の伴侶や仕事のパートナーを見つけてしまう、というコメディ。


むかしの東京の風景(昭和30年ころ)を見て、その時代がもっていた空気を吸ってみるだけで、たのしくなる。それにしても、登場人物たちは、家だろうが会社だろうが、女性がいようがいまいが、よく煙草を吸うのが、今の感覚では奇異に感じられる。嵯峨三智子は、笑うと歯並びがかわいく、そのことって忘れていたけれど、むかし見たときも、そんなふうに感じた、という記憶がよみがえる。




丸山誠治監督『女房族は訴える』(1956年)。


出演=佐野周二三宅邦子岡田茉莉子、小泉博、雪村いづみ、嵯峨三智子。

捕鯨会社の部長・佐野周二は上司から浮気の後始末を頼まれる。しぶしぶ浮気相手の嵯峨が勤めるクラブに通う佐野は家族から疑われ・・・。中流家庭で巻き起こるどたばたを描いた明るいホームドラマ。日劇のトップレス・ダンサーを普通に眺める観客たち、英語まじりの会話など当時の風俗も興味深い。


(同じく、パンフレットから)


嵯峨三智子演じる上司の愛人から信頼され気にいられ、まんざらでもないながら、それではいけない、と困惑する佐野周二をめぐっての「お家騒動」。夫への不信は、小津映画でおなじみの良妻・三宅邦子の顔を曇らせてしまうが、最後は誘惑に負けず、夫として父としての信頼を勝ち得る、というのんびりしたホームドラマ。


良妻役の三宅邦子と艶っぽい愛人役の嵯峨三智子。タイプの真逆の女性に挟まれる佐野周二の戸惑いぶりがたのしい。



帰り、渋谷の小さな立食い寿司へ寄って、アパートへ帰る。