どちらもringoさんに録画していたDVDをお借りしたものです。よかったです、特に『わが町』が予想以上に重い感動がありました。
人力車ひきの生涯を描く、というと、小倉を舞台の、あの『無法松の一生』を連想します。こちらは、大阪の下町が舞台。大阪版「無法松」だろうか、と見ていきましたが、ぼくの貧弱な予測は段々はずれていきます。
「男はからだをいためて働かなきゃいかん」
という信条で、頑固・実直に人生を生き抜いた<ターやん>の生涯を描いていますが、織田作と川島雄三の眼は覚めています。
途中まで見ていて、「無法松」とは決定的に違うことに気がつきました。
この映画『わが町』は、お人好しだが、頑固で、思い込みの強いターやん(辰巳柳太郎)が、自分の信念で、周囲の人間(妻・娘・孫)の人生を不幸にしていく、そういう厳しい眼で見た、車ひきの生涯なんです。
下町・人情・実直な男=この3つの要素をあわせもちながら、人情劇にならない、ふしぎな映画でした。
背景の大阪の町については、ringoさんが詳しく感想を書いています。織田作のたいていの小説がそうであるように、この映画も、もうひとつの主人公は、大阪という町なのかもしれません。
★ ★ ★
『還って来た男』は、1944(昭和19)年の映画。戦時下の作品です。でも、そのことをあまり意識する必要はないかもしれません。
折り目正しい男女の会話には、少し窮屈なものを感じますけど、いまだって控えめな男女の交流なんて、こんなものかもしれませんし。
戦場から帰還してきた青年(佐野周二)と周辺の若い女性との、心ときめく触れ合いが、慎ましく描かれます。
「ぼくは、見合いは一度しかしない。だから一度見合いをしたら絶対結婚するんだ」
こんな考えは現在通用しませんね(笑)。これが昭和19年という時代なのでしょうか。
佐野周二演じる爽やかな青年と、たくましく自立して生きる若い女性たちの生き生きした表情を、ドラマ性を抑え、淡々と描いた映画で、好感をもてました。
【追記】新藤兼人作品にくわえ、『にあんちゃん』、『わが町』を見ていると、殿山泰司という脇役俳優の存在に、だんだん気がひかれていきます。1つ1つの作品ではそれほどにおもわなくても、重ねてみていると、彼の演技がボディー・ブローのように効いてくるんです。殿山泰司の登場で、作品の空気が急に濃密になってくるようなふしぎな俳優です。最近、古い映画を見ると、この俳優に注目しています。