9月1日、土曜日。
新宿武蔵野館へ、三宅唱監督『きみの鳥はうたえる』を見にいく。
40分ほど早く着いたので、アルタ近くの喫茶店『ルノアール』でひと休み。電子書籍で、『天切り松 闇がたり』3巻を読む。大正時代の東京がかなり具体的に出てくるので、頭のなかで「大正の風景」を想い浮かべるのがたのしい。「天切り松」の闇がたりは、いよいよ冴えてくる。

- 作者: 浅田次郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/06/17
- メディア: 文庫
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森鴎外が登場してきた。松蔵(「天切りの松」の本名)たちが、永井荷風をともなって、鷗外の住居「観潮楼」を訪ねるシーンがでてくる。
タイトルを忘れたが、永井荷風は、随筆でこの観潮楼を訪問したときのことを書いている。ただし、ひとりであって、「天切り松」といっしょではない(笑)。荷風は、通された2階の客間で鷗外を待ちながら、遠くに見える海をぼんやり眺める・・・。当時は、文京区千駄木の「観潮楼」2階から、東京湾が見えたのだ。そんなことを思い出す。
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11時45分から新宿武蔵野館で、『きみの鳥はうたえる』を見る。
「そこのみにて光輝く」などで知られる作家・佐藤泰志の同名小説を、柄本佑、染谷将太、石橋静河ら若手実力派俳優の共演で映画化した青春ドラマ。原作の舞台を東京から函館へ移して大胆に翻案し、「Playback」などの新鋭・三宅唱監督がメガホンをとった。
函館郊外の書店で働く“僕”と、一緒に暮らす失業中の静雄、“僕”の同僚である佐知子の3人は、夜通し酒を飲み、踊り、笑い合う。微妙なバランスの中で成り立つ彼らの幸福な日々は、いつも終わりの予感とともにあった。
主人公“僕”を柄本、友人・静雄を染谷、ふたりの男の間で揺れ動くヒロイン・佐知子を「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」で注目された石橋がそれぞれ演じる。
(「映画.com」から)
https://eiga.com/movie/86483/
タイトルの「きみの鳥はうたえる」ってなんだろう? そうおもっていたら、スクリーンにタイトルがでたとき、「Your bird can sing」という英文が添えられていた。これってビートルズ・ファンならすぐに反応してしまうだろ(笑)。
ビートルズ1966年発表のアルバム『Revolver』のアナログB面の2曲目に収録されている「And Your Bird Can Sing」。これの翻訳ではないだろうか。原作者の佐藤泰志氏がビートルズをヒントに、このタイトルをつくったのだろうか?
佐藤泰志の小説がどんどん映画化されている。どれも、重厚感のある青春映画で、心に残る。最初に映画化された『海炭市叙景』(熊切和嘉監督、2010年)は、函館市が制作の呼びかけ人であり、映画のなかにも、加瀬亮、谷村美月、小林薫などにまじって、複数の函館市民が、主要な登場人物を演じている。そういう自主制作のような作品だった。
そんな手づくりではじまった佐藤泰志作品の映画化は、その後もつづき、当時絶版だった佐藤泰志の小説もいまは復刊され、電子書籍でも読めるようになった。
これまでに映画化された佐藤泰志の作品。
●熊切和嘉監督『海炭市叙景』(2010年。谷村美月、加瀬亮)
●呉美保監督『そこのみにて光輝く』(2014年。綾野剛、池脇千鶴)
●山下敦弘監督『オーバー・フェンス』(2016年。オダギリ・ジョー、蒼井優)
どれも独特の空気感を持つ作品ばかり。
今回の『きみの鳥はうたえる』は、3人の主演のひとりに石橋静河が出演しているので、公開前から期待していた。
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年。石井裕也監督、共演:池松壮亮)を見て、この女優にすっかり魅せられてしまった。東京の街を歩いたり、自転車で走ったり、そういういわゆるふつうの若者が行動しそうな風景のなかに生きているのだけれど、存在感があって、小さな表情の変化が言葉にならない感情を表現してくる。
この存在感の強さ、表情の微妙な変化は、この映画でもきっちり継承されていた。期待を裏切られなくて、よかった。そんな安堵感がまずあって、それからもう彼女の演技といえないような演技に心を奪われっぱなしだった。酔った彼女が、クラブで大胆に踊るシーンは、ほかのところが抑制的なので、強い印象が残る。
男性ファンだからどうしても魅力的な女性へ、いちばんに目がいってしまうけど、共演の柄本祐も、染谷将太もよかった。柄本祐は、『素敵なダイナマイトスキャンダル』で、ほかの俳優にない存在感を発揮していていたが、今回もとてもユニークな役どころをこなしていた。何を考えているのかわからないところがおもしろい。
染谷将太は、これまであまり映画で見た印象がない。はじめて見るのかもしれない。と、おもったら、そうだ『空海』を見ていた(笑)。ただ、映画としての印象はうすい。でも、柄本祐と石橋静河の個性があざやかなので、それを中和するような存在で、それはそれでよかった。
佐藤泰志の若者には、エリートたちは登場しない。肉体労働か非正規労働の若者たちだが、環境のなかで自分たちの生き方を探している。そんな等身大の若者たちに共感してしまう。
残念ながら、原作者の佐藤泰志氏は、1990年に自殺している。
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帰り、雨を心配しながらも、歌舞伎町入り口の立飲み「春田屋」へ寄り、ホッピーとやきとんで昼飯を食べながら、『天切り松 闇がたり』3巻を読む。