アルバム『ジョンの魂』のジャケット。
ジョン・レノンがビートルズ解散後、はじめて出したソロ・アルバム(それまでの実験作はのぞいて)が『Plastic Ono Band(邦題:ジョンの魂)』。1970年に発売された。
ジョン・レノン=ギター、ピアノ。
クラウス・ブーアマン=ベース。
リンゴ・スター=ドラムス。
この三人だけで、重ね録りもない。「せいの」で歌い、演奏されている。
歌詞は、シンプルな単語を並べているので、英語の苦手なわたしでも、大意をつかめた。
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アルバム全体が、ジョンという自分の名前や「I」の一人称で歌われている。
わたしは「私小説のようなアルバムだ」、とおもったけど、ジョン自身は、「俳句のようなアルバム」といっている。
アルバム1曲目の「マザー」は、ちいさなころに自分のもとを去った母と父のことを歌っていた。
(大意)
母さん、ぼくはあなたが必要だったけど、あなたはぼくが必要じゃなかった。
父さん、ぼくはあなたが必要だったのに、あなたはぼくを置き去りにした。
どの曲も、音が少ないので、ジョンの息づかいが、レコードから聴こえてくる。そして、リンゴのドラムがジョンの心臓の鼓動のように聴こえる。時々、ジョンが息遣いを荒くしたり、絶叫したりすると、リンゴのドラムも、激しく、慌ただしくなる。
『Plastic Ono Band』は、ジョンの全作品のなかでも、いちばんの問題作だけど、内容が重いので疲れるときもある。
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2021年4月、このアルバムの50周年盤が出たので、アップル・ミュージックでひさしぶりに聴いた。
むかしとちがっているのは、50年という歳月がくわわって感じられる、ジョンの声の懐かしいぬくもり。
ジョンは、このアルバムでソロとして再出発したけれど、それからわずか10年でいなくなってしまう。
40歳の生涯だった。
アルバム『Plastic Ono Band』から聴こえてくるのは、30歳のジョン・レノンの声。
20歳のわたしは、当時この直球アルバムをやや持て余しぎみに聴いたけれど、いまはそういう複雑な感情はわかない。ただ懐かしい。
これからはじまる1970年代。
それからのジョンの10年とわたしの10年が、あれもあったこれもあったと、わたしのなかで混じりあう。
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50年前も今も、アルバムでいちばん心に響くのは「God」という曲。
「God」は、ビートルズと、ビートルズの夢を追い続けようとするファンへの、ジョンの訣別の歌だった。
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歌のあとの映像は、エリオット・ミンツというジョンに親しいひとが「ビートルズは再結成するの?」と聞くと、いつも再結成に否定的な意見を吐くジョンなのに、このときは「どんなことも起こりうる可能性があるよ」と、いっていたようなあやふやな記憶がある(笑)。英語のわかるひとは教えてください。
「God」(大意)
神は苦痛をはかる尺度にすぎない。
もう一度言おう。
神は苦痛をはかる尺度にすぎない。
ぼくは魔法を信じない。
ぼくは易経を信じない。
ぼくは聖書を信じない。
ぼくはタロット占いを信じない。
ぼくはヒトラーを信じない。
ぼくはイエス・キリストを信じない。
ぼくはケネディを信じない。
ぼくは仏陀を信じない。
ぼくはマントラを信じない。
ぼくはギータを信じない。
ぼくはヨガを信じない。
ぼくはキング牧師を信じない。
ぼくはエルビスを信じない。
ぼくはジマーマン(ボブ・ディランの本名)を信じない。
ぼくはビートルズを信じない。
ぼくはぼくだけを信じる。ヨーコとぼくだけを。
それが現実。
夢は終わったんだ。
なんといえばいいか‥‥
夢は終わったんだよ、昨日ね。
ぼくはずっと夢を紡いで生きてきたけど、
今、生まれ変わったんだ。
昨日までのぼくはウォーラス*1だったけど、今日からはジョン(ぼく自身)だ。
友よ、きみたちはまだ夢を見続けるのかい。
でも、夢は終わったんだよ。