かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

ジョンの「God」は、ビートルズと、ビートルズ・ファンへの訣別の歌だった(50周年盤『ジョンの魂』を聴いて)。

f:id:beatle001:20210527105516j:plain
アルバム『ジョンの魂』のジャケット。




ジョン・レノンビートルズ解散後、はじめて出したソロ・アルバム(それまでの実験作はのぞいて)が『Plastic Ono Band(邦題:ジョンの魂)』。1970年に発売された。


ジョン・レノン=ギター、ピアノ。
クラウス・ブーアマン=ベース。
リンゴ・スター=ドラムス。


この三人だけで、重ね録りもない。「せいの」で歌い、演奏されている。


歌詞は、シンプルな単語を並べているので、英語の苦手なわたしでも、大意をつかめた。



アルバム全体が、ジョンという自分の名前や「I」の一人称で歌われている。


わたしは「私小説のようなアルバムだ」、とおもったけど、ジョン自身は、「俳句のようなアルバム」といっている。


アルバム1曲目の「マザー」は、ちいさなころに自分のもとを去った母と父のことを歌っていた。

(大意)


母さん、ぼくはあなたが必要だったけど、あなたはぼくが必要じゃなかった。


父さん、ぼくはあなたが必要だったのに、あなたはぼくを置き去りにした。


どの曲も、音が少ないので、ジョンの息づかいが、レコードから聴こえてくる。そして、リンゴのドラムがジョンの心臓の鼓動のように聴こえる。時々、ジョンが息遣いを荒くしたり、絶叫したりすると、リンゴのドラムも、激しく、慌ただしくなる。


『Plastic Ono Band』は、ジョンの全作品のなかでも、いちばんの問題作だけど、内容が重いので疲れるときもある。





2021年4月、このアルバムの50周年盤が出たので、アップル・ミュージックでひさしぶりに聴いた。


むかしとちがっているのは、50年という歳月がくわわって感じられる、ジョンの声の懐かしいぬくもり。


ジョンは、このアルバムでソロとして再出発したけれど、それからわずか10年でいなくなってしまう。


40歳の生涯だった。


アルバム『Plastic Ono Band』から聴こえてくるのは、30歳のジョン・レノンの声。


20歳のわたしは、当時この直球アルバムをやや持て余しぎみに聴いたけれど、いまはそういう複雑な感情はわかない。ただ懐かしい。


これからはじまる1970年代。


それからのジョンの10年とわたしの10年が、あれもあったこれもあったと、わたしのなかで混じりあう。





50年前も今も、アルバムでいちばん心に響くのは「God」という曲。


「God」は、ビートルズと、ビートルズの夢を追い続けようとするファンへの、ジョンの訣別の歌だった。




www.youtube.com
歌のあとの映像は、エリオット・ミンツというジョンに親しいひとが「ビートルズは再結成するの?」と聞くと、いつも再結成に否定的な意見を吐くジョンなのに、このときは「どんなことも起こりうる可能性があるよ」と、いっていたようなあやふやな記憶がある(笑)。英語のわかるひとは教えてください。



「God」(大意)


神は苦痛をはかる尺度にすぎない。
もう一度言おう。
神は苦痛をはかる尺度にすぎない。


ぼくは魔法を信じない。
ぼくは易経を信じない。
ぼくは聖書を信じない。
ぼくはタロット占いを信じない。
ぼくはヒトラーを信じない。
ぼくはイエス・キリストを信じない。
ぼくはケネディを信じない。
ぼくは仏陀を信じない。
ぼくはマントラを信じない。
ぼくはギータを信じない。
ぼくはヨガを信じない。
ぼくはキング牧師を信じない。
ぼくはエルビスを信じない。
ぼくはジマーマン(ボブ・ディランの本名)を信じない。
ぼくはビートルズを信じない。


ぼくはぼくだけを信じる。ヨーコとぼくだけを。
それが現実。


夢は終わったんだ。
なんといえばいいか‥‥
夢は終わったんだよ、昨日ね。


ぼくはずっと夢を紡いで生きてきたけど、
今、生まれ変わったんだ。


昨日までのぼくはウォーラス*1だったけど、今日からはジョン(ぼく自身)だ。


友よ、きみたちはまだ夢を見続けるのかい。
でも、夢は終わったんだよ。

*1:ウォーラス=セイウチ。ビートルズの「アイム・ザ・ウォーラス」との関連からビートルズをさしている?