かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

村上護著「放浪の俳人 山頭火」(講談社)


詳細な山頭火伝。彼にとって、生きることは句をつくること、句をつくることは、生きることだった。その生涯を追想する。山頭火は、酒を飲むと、われをわすれて失態を重ねる。そして、翌日は強烈な自己嫌悪に苦しむ。彼は酒を飲むと、お金も持たず高級料亭にあがりこみ、惜しげもなく乱費する。その尻拭いをするのは俳人仲間。思えば、そんなわがままが許されたのもふしぎだ。

生涯山頭火は、酒をやめることはなかった。そして、生涯酒に溺れる自分を責め続けた。句作、旅、酒……ここに山頭火の生涯が集約される。

妻子を捨てた山頭火は、その捨てた息子の送金を頼って、わずかに生計をたてることもあった。屈辱の父。所詮自分ひとりでは生きていけない「社会のイボ」のような存在である。

彼が最後に望んだのは誰にも迷惑のかからない「ころり往生」。鳥や獣のように、屍をさらさず、死ぬることであった。山頭火の「ころり往生」の願いは、叶えられる。

昭和15(1940)年、山頭火は59歳で彼の庵で句会がひらかれているさなか、奥の間で死んだ。彼の俳人仲間は、いつものように、山頭火がお酒に酔って、前の晩から寝ているのだう、とおもったという。苦しむこともない、極楽往生

晩年に山頭火が詠んだ句。

○暑い日をまことにいそぐ旅人なり
○蛙になりきって跳ぶ
○水がとんぼがわたしも流れていく
○今日も郵便が来ないとんぼとぶとぶ
○いつ死ねる木の実は撒(ま)いておく
○たんぽぽちるやしきりにおもふ母の死のこと
○おちついて死ねそうな草萌ゆる