かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

竹中労著『聞書アラカン一代〜鞍馬天狗のおじさんは』


tougyouさんがブログで紹介してくださった本です。


こどものころ、映画のおもしろさをチャンバラで知りました。そして、ぼくのヒーローは、1に鞍馬天狗、2に丹下左膳でした。


その鞍馬天狗そのひとであるアラカンが、関西弁でしゃべるわしゃべるわ……そして、随所で「オメコ」を連発(笑)。自他ともに認める好色ぶりには圧倒される。

ええか、女をすきになったらあかんのやで、オメコやったら何ボでもすきになれ。


これがアラカン鞍馬天狗で一躍有名にしてくれたマキノ省三の教えだそうな。アラカンは、生涯なんどか女に惚れていますが、おおむね、この言葉を忠実に守ったようです(笑)。


はじめて知ったことはおおいですが、山中貞雄監督が、嵐寛寿郎の独立プロダクション(寛プロ)の出身だったということもその1つ。アラカンは、山中貞雄監督の才能の発見者でもあったようです。


●アラカンが語る、山中貞雄の風貌と才能

山中のホンは良かった。佐々木味津三はんの原作にとらわれぬ自由なアイデアがおました。最初この男に会うたとき、才能あんのかいなと思うた。ぼうようとしとる。スローモーションですねん。不精ひげ生やして、ドテラ着て会社にくる。タバコの空缶、チェリーやったかいな帯にくくりつけとる。それに灰たたきますねん。ポンポンと。『新青年』ゆう雑誌おましたやろ、しょっちゅう読んでいる。仕事しとるんかいアレ、本ばかり見とるなあ。どうでもよいけれど着るもんないのんか、コジキやでほんまに。シラミ湧いとるやろ何とかしてやれと、洋服を買うてやったら、たちまち質に入れてドテラをまた着てきよる、往生したんダ。


ところが、シナリオを見てたまげた。二度びっくりや、これ天才やないか。おもろいホン書きよるで、監督にせいと。


ラカンの人物描写がすばらしいですね。語りのなかから、山中貞雄の風貌が、あざやかに浮かんできます。アラカン、ただの好色漢ではございません(笑)。

山中貞雄は天才やった。立木のまわりをキャメラが廻る、春・夏・秋・冬と花が咲き葉が茂り、葉が落ちて四季はめぐり、一年たったと。こんな監督おへん、出逢いのものでんなあカツドウシャシンは。


『天狗廻状』(鞍馬天狗シリーズの1本)、シナリオ見たら五十人も斬り殺すとある。あかんウソやこれ、立ちまわりでけへんとゆうた。ほたら山中、これでええというんダ。彦根のロケやった、わっと搦(から)みが斬りかかる。天狗は城門の中へ、搦みが追う、わーっとなだれる。パッとキャメラ切りかえよる、悠々刀をおさめて天狗ずいとキャメラ前へ。後方死屍(しし)るいるい、うーん、参った。


ラカンは、山中貞雄が、彼のプロダクション「寛プロ」をやめてからも、生涯にわたり、その才能を絶賛していたといいます。


【おわび】:これをアップしてから、改めてtougyouさんのアラカンに触れたブログを読みましたら、山中貞雄についての引用がダブってしまいました。あとから、同じ個所を引用してしまったのはわたしなので、tougyouさんに申し訳なくおもいます。先に、確認してから、アップするべきでした。