11月14日、土曜日。晴れ。
川越駅で、クルマで迎えにきた妻にひろってもらい、「ウニクス南古谷」へ、黒沢清監督、蒼井優、高橋一生主演の『スパイの妻』を見にいく。
時間まで映画館の向かいのコーヒー店で、読みかけの渡辺利夫著『放哉と山頭火』(Kindle版)を読む。読むのに時間がかかっているけど、つまらないわけではない。内容が重いので、ときどきほかの本に移って、息抜きしたくなる。
- 作者:渡辺 利夫
- 発売日: 2015/06/10
- メディア: 文庫
尾崎放哉(1885年ー1926年)は、エリート・コースの人生を酒癖の悪さなどから転落して、家族ともわかれ、ひとり小豆島へ住み着き、自分のこころの痛みを俳句で表現しつづけた。持病の肋膜炎をかかえ、いつも死がとなりにいる人生だった。
代表的な句は、「咳をしても一人」。
山頭火(1882年ー1940年)は自殺未遂ののち、家族とわかれ、墨染めの僧侶の姿で、全国を行乞(ぎょうこつ・・・僧侶がもの乞いして歩くこと。托鉢)して歩いた。
安宿へ泊まり、文無しになると、野宿をした。まれに行乞の成果がよくて懐ろがあたたかくなると、町へ繰り出してお酒を飲む。飲みだすと終わらない酒だった。山頭火の人生には、酒の失敗がついてまわる(ひとごとではない!)
山頭火は、山から山へと歩いて、癒されようもない孤独を、韻も季語もない自由律句で表現しつづけた。
代表的な句は、「分け入っても分け入っても青い山」。
彼らは、極貧のなかで、血を吐くように句を詠んだ。安定とは真逆なふたりの壮絶な人生に接すると、目にみえるすべてがゆるくみえてしかたがない。
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11時40分より『スパイの妻』上映開始。
1940年の満州。恐ろしい国家機密を偶然知ってしまった優作は、正義のためにその顛末を世に知らしめようとする。夫が反逆者と疑われる中、妻の聡子はスパイの妻と罵られようとも、愛する夫を信じて、ともに生きることを心に誓う。そんな2人の運命を太平洋戦争開戦間近の日本という時代の大きな荒波が飲み込んでいく。
(「映画.com」より)
https://eiga.com/movie/93378/
上の筋書きを読むと、反戦主義者とその妻が、暗黒の政権と闘うようなイメージが浮かぶ。
でも、わたしは、むかし見た、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードW主演のひっかけ映画『スティング』(1973年)が頭に浮かんだ。
敵をだますには、まず味方をだまさなきゃ、ということなのか、『スティング』ほどのあざやかさはないけれど、『スパイの妻』は、「だまし」が見せ場になるような作品でもあった。
そのためか、国家犯罪の実態を世に知らせようという正義感がストレートに伝わってこない。そもそもそういう映画ではない、ともおもう。
わたしは黒沢清監督の映画が苦手なのか、感動したことがない。今回も、蒼井優が目的で、映画を見るまで監督がだれかも知らなかった。
蒼井優は、貞淑で可愛い妻でありながら、愛情からとはいえ、夫をだますこともやってのける、したたかな女の一面も演じる。
蒼井優は、よかった。もしヒロインが蒼井優でなかったら、もっと映画を長く感じたかもしれない。
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帰り、焼肉屋へ寄ってホッピーを飲む。
妻の映画の感想は、「蒼井優はよかったけど、映画はフツーだね」ということだった。