かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

溝口健二監督『雪夫人絵図』(1950年)

雪夫人絵図 [DVD]


【注】:ringoさんがすでにブログへ感想をアップされています。そこで、ぼくは少し違う視点から、作品を眺めてみました。


待望の溝口作品を、また1本見ることができました。貴婦人のこころとからだの折り合いがつかず悩み苦しむテーマは、ダイアン・レインが演じた『運命の女』とも共通するものがあります。


雪夫人(木暮実千代 )は、下品な夫をこころで憎みながらも、彼女のからだは夫の愛撫を悦びで迎えてしまいます。何度も夫と別れることを決心しながら、会えば夫の無遠慮な愛撫を迎え入れ、あげくは自分から「別れないください」と懇願する始末。

箱根芦ノ湖周辺の山と湖の美しい映像を背景に、雪夫人の「愛欲地獄」が描かれていきます。

しかし、ストーリーの運びは後半になるにつれ、通俗化していきます。おめかけ(浜田百合子)と愛人(山村総)が雪夫人の旅館をのっとる話などは、テレビの「火曜サスペンス劇場」(そんなドラマがあるかわかりませんが)でも見ているようで、ガッカリします。仮に原作にあったものでも、思い切って切り捨て、映画化してもよかったのではないでしょうか。最後は雪夫人の自殺で終わりにするなんて、いかにも安易なまとめ方で、これが名匠の作品かとおどろきました。

遡れば、映画がはじまってまもなく雪夫人が自分の口から、こころとからだが離反していることを生のセリフでいいます。セリフでテーマを説明しては、作品としては自殺行為ではないでしょうか。

原作によるものか、脚本によりものかわかりませんが、テーマのおもしろさに比べて、作りすぎたストーリーに後半は興を冷まされました。