かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

恩蔵茂氏の「ビートルズが来た!」を読んで(2)

ビートルズの日本公演は、ふしぎなことに日本の興行側からの要請ではなく、ビートルズ側からの希望でした。ブライアン・エプスタインから、極東ツアーの折り、日本にも行ってみたいという話があり、これまで外国ミュージシャンにもっとも信頼の厚い興行主永島達司氏に白羽の矢が立ちました。永島達司氏は、ナットキング・コールやフランク・シナトラは理解できても、個人的にビートルズには特別興味がない。ご本人には、ありがためいわくな話だったようです。

第一どれだけ会場を満員にできたところで、ビートルズへのギャラを考えると採算があうはずがない。仕事としてのうまみはない。また、損得を度外視して呼ぶほど、永島氏にビートルズへの愛情はない。そこで永島達司氏はビートルズ日本公演の話を穏便に断るつもりでイギリスに飛んだということです。

しかし、ブライアン・エプスタインの申し出は「ビートルズの日本公演に利益は考えていない。日本の少年少女が見られるムリのない料金を設定してほしい」(要するにギャラはほぼ言い値のまま)というものでした。ギャラの問題は解消しました。が、エプスタインは、日本の梅雨時期に雨の中のコンサートは困るので、「1万人以上を収容できる屋内会場」をさがしてほしい、と条件をつけてきます。ビートルズの日本公演は一気に現実味を帯びてきましたが、会場さがしに二転する騒動があったのは、前回ご紹介したとおりでございます。

マスコミのビートルズ攻撃!

小汀利得(おばま・りとく)と細川隆元(ほそかわ・りゅうげん)の老人二人が毒舌で世を裁く「時事放談」は、ぼくもときどき見ていました。しかし、この老人たち二人がその毒舌の対象をビートルズに向けたときの放送は、すごく不愉快でした。しかも、こんな老人の発言がキッカケでますますマスコミのビートルズ排撃がエスカレートしていったのでなおさらです。

恩蔵茂氏の文章から、当時のテレビ・ラジオ・雑誌に掲載されたビートルズ関連の記事のタイトルを並べてみます。

(略)

オトナたちは、なぜこんなにもビートルズを目のカタキにしたのだろう。ビートルズ来日記者会見でジョージが発言した「ぼくたちは老人たちの言うことを見逃してあげるのに、老人たちはぼくたちを見逃してくれない」という言葉が、至極もっともに思える。

6月5日、6月20日には、火付けとなった「時事放談」が続編をくむ。今回は、ビートルズ・ファンをスタジオに招いての放送だった。

オバマ・リトク氏とホソカワ・リュゲン氏が前回の好評(?)にのって、連続のビートルズ攻撃を開始。ビートルズ・ファンはほとんどさらし者状態で、二人の老人にテッテイ的に攻撃されて泣くばかり。テレビ・カメラは、ここぞとばかり泣くばかりで何の反論できない少女のアップを撮影した。
(恩蔵茂「ビートルズが来た!」より)


番組中、二人の老人はどのような言葉でビートルズ・ファンを攻撃したか。続いて、発言の一部を恩蔵茂氏の文章から引用してみます。

  • だいたいビートルズだのエレキだの,モンキーダンスだのとそこいらで「ハアー」なんていって騒いでいるやつは超特別に軽蔑しているんだよ。だいたい人類進歩のためにならない、人類を堕落させる動きだからね、ああいうのは。
  • ビートルズは)非常にくだらない。低級なものだということは動かすことができん事実だ。・・・ワイワイ騒いでガチャガチャやってれば、ものを考える力なんかなくなるにきまってる。
  • ビートルズ公演に)行っちゃいかんとは言ってない。ビートルズをありがたがるやつはバカで低能だと言ってるだけだよ。
  • 何を根拠にと言ったって、あんなうるさいものはだめだアね。
  • いや、ただもう騒音だよ。あれは、それから反社会的だよ。夜の十二時半くらいになってもワアッって集まって、ワアワアやってる。卑しいもんだよ。

一番つらいのは、同世代からの攻撃だった

こうした番組はいくつか組まれたが、それにしてもあの少女たちはなんのために番組に出演したのだろう。自らマスコミの餌食になる必要などなかったろうに。それが、ぼくにはわからない。

クソジジイなど、もうハナから話にならない。親、教師、オトナは何もわからない、という意識がぼくは強くなった。もっともらしい顔でビートルズの害毒を強調する教師にはうんざりした。しかし、もっともぼくが傷ついたのは、マスコミやオトナの価値観をそのまま受け入りして、ビートルズを攻撃する同級生でした。

ロッキングオン」誌の創立者渋谷陽一氏が、ビートルズを攻撃する同級生を「おまえらぶっ殺してやる、と思った」と書いたり、「ビートルズ世代なんていなかった」と書くのは、そんな感情の表現だとおもいます。

同じ「ロッキングオン」の松村雄策氏は、「ビートルズよりは、ベンチャーズ加山雄三のほうがずっとメジャーだった」といっていますが、ぼくも、ビートルズ・ファンは少数派だった、という実感が強くあります。世代の共通認識として、ビートルズは支持を受けていませんでした。

恩蔵茂の文を引用しますと、、、

ただ、オバマ氏は老人(当時76歳)だから許せるのであって、彼と似たようなことを平気で口にするビートルズ・ファンと同世代の連中がいたことのほうがずっと問題だった。

というようなわけで、肝心のビートルズとはべっこのところで、日本中の9割がビートルズを攻撃し、1割が熱い声援を送るというような状況で、ビートルズ騒動は熱気を増し、いよいよ日本公演を迎えるわけでございますけど、長くなりましたので、また次回にゆずります。