かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

恩蔵茂氏「ビートルズが来た!」を読んで(3)

【注】:『恩蔵茂氏の「ビートルズが来た!」を読んで』(1)(2)の続きです。はじめての方は、こちらを先に読んでください。

ビートルズより先にやってきたイギリスのグループ

ビートルズ・クラブ」に連載されている、恩蔵茂の「ビートルズが来た!」がとてもおもしろのでご紹介してまいりましたが、今回はその3回目です。あまり先の考えもなく続けてまいりましたが、うまくいけばあともう1回くらいで終りにしたいとおもっております。


今回、恩蔵茂氏の文章を読んでいて、ビートルズが来日する前に、

  • 1965年4月、ピーター&ゴードン
  • 1965年6月、アニマルズ
  • 1965年8月、ハニカム
  • 1966年2月、ハーマンズ・ハーミッツ

が来日していることを知りました。

恩蔵茂氏は、これらのいわゆる「リバプール・サウンド」といわれたグループすべての公演を実際にライヴ体験しているようです。ビートルズ探検隊のメンバーでは、たしかジュリマムさんが、ピーター&ゴードンのライヴに行かれていたようにおもいます*1

ぼくは、どれも見に行けませんでしたが、それでもテレビに出演したライヴ(口パクだったかもしれませんが)は見ました。特にアニマルズの印象が強くあります。「朝日のあたる家」が好きだったので、アニマルズはかなり熱心にテレビを見ていた記憶があります。

上記のグループが来日したときは、ビートルズが来日する時起こったような「騒動」はなく、マスコミが騒ぐこともありませんでした。

そして、、、

イギリスのグループが来日するたびに、本命ビートルズの来日がいつになるのか、待たれました。


「ウェルカム・ザ・ビートルズ!」

なのに、、、

いざビートルズの来日が現実のものになると、夢の中の話のようで、信じられない思いでした。

「同じ人の複数応募は無効」というので、ぼくは家族、親戚、級友の名前を借りて、13枚抽選の往復ハガキを出しました。せっかく当選の返事がもどってきても、広告と一緒に捨てられてはならないので、ちゃんと信頼できそうなひとを数えてみたら13名いたのだとおもいます。

そのなかの1枚が当選しました!

ビートルズがやってくるまでのあいだ、ぼくはどういう生活をしていたのか。きっと毎日毎日ビートルズのレコードをかけて予習していたんでしょうね(笑)。

ビートルズ公演の日程は、6月30日(木)、7月1日(金)、7月2日(土)の3日間で、計5回*2日本テレビのコンサート放送は、7月1日。公演中の真っ只中にライヴ・ステージが放送されるというのが今思えば珍しい。ただ中継ではなく、録画でした。

ショーは2部構成で、前半が日本人出演者のライブ、それからビートルズが登場する。日本側の出演者は尾藤イサオ内田裕也、望月浩、桜井五郎、ジャッキー吉川ブルーコメッツ、ブルージーンズ、ザ・ドリフターズ(あのドリフターズです)。ところが、この人たちの歌と演奏がみごとなまでに記憶からスッポリ抜け落ちている。ぼくが見たのは7月1日の夜の部で(略)、この日はドリフターズは出演していない。

(恩蔵茂氏「ビートルズが来た!」より)

ぼくも1部に出演した日本人ミュージシャンの印象がありません。たしか、ぼくが見た7月2日昼の部の公演でもドリフターズは出演していなかったような気がします。ドリフターズは、日によって出たり出なかったりがあったのか。

さらに、細かなことですが・・・

たったひとつ覚えているのは、ジャッキー吉川ブルーコメッツが「ウェルカム・ビートルズ」という曲を演奏したことだ。それまでしらけっぱなしだった客席から、「ビートルズ」という言葉に反応して初めて歓声が起こったが、ぼくはそのセンスが恥ずかしくてたまらなかった。ビートルズに聞こえなければいいな、とさえ思った。

ところが、聞こえていたのである。『アンソロジー*3のなかに、ポールの以下の発言がある。

「僕等の前座におもしろい日本のグループが出てた。この当時は、日本人はまだロックン・ロールというものをよくわかってなかった。(略)そのグループは、”ハロー・ビートルズ! ウェルカム・ビートルズ!”とか歌ってた。……ロックンロール的にはダサいけど、すごく嬉しいことではあるよね」

(上記と同じ)

この歌は、さらに「ウエルカム、ジョン・レノン。ウェルカム、ジョージ・ハリスン、ウェルカム、ポール・マッカートニー、ウェルカム、リンゴ・スター」というように、メンバー全員の名前を連呼するんですが、ぼくは気持ち悪かった。いくらなんでも、これはひどすぎる、とおもいました。メロディーもあるような、ないような即席でつくられたヘンな歌でした。

ただ、ぼくの見たときはこの歌を、内田裕也、尾藤イサオ、望月浩の3人が歌っていたような記憶があります*4

ぼくの見た日にはジャッキー吉川ブルーコメッツが出演していなかったのかもしれません。彼らのことがまったく記憶から抜けています。そのために3人が代理をつとめたのか。あるいは、ブルーコメッツをバックにして、この3人がフロントで歌ったのか。ぼくにとっては、当時どうでもいいことだったので、記憶があやふやです。

日本側の出演者たちがぼくの記憶にまったく残らなかったのは、彼らの”ズレ方”のせいだと思う。ありていに言ってしまえば、彼らはビートルズと比べて、あまりに時代遅れだったのだ。

(上記に同じ)

まったくロックを感じさせないジャッキー吉川ブルーコメッツが出演して、格段に当時としてはブルーコメッツよりはロック・バンドだったスパイダーズが出演していないのは、彼らがビートルズの新しさを肌で感じとって自粛したのではないか、と恩蔵茂氏は書いています。たしかに、あのころロックを感じさせるバンドは、スパイダーズくらいしか思い浮かびません。タイガース、テンプターズが活躍するのは、来日公演の翌年のことでした。

目の前にビートルズがいる!!

とにかく、ぼくには前座は早くおわってほしいだけで、だれが出てもほとんど関心の対象外でした。みんな、ステージから歌手やバンドが降りて、次にだれか上ってくると「キャア」と悲鳴をあげていました。そして、ビートルズでないことがわかると、ため息にかわります。

ビートルズが登場するまでが、すごく長く感じられました。

そんなこちらの緊張感とはまるで関係なく、E.H.エリックが「レディース・アンド・ジェントルマン、ビートルズの登場です。拍手で迎えてください」と紹介すると、待ちに待ったビートルズは、何の演出もなく、4人がスタスタとステージに歩いてきました。歌謡ショーにしても何にしても、こんな無造作な登場の仕方をはじめて見ました(笑)。が、それがいかにも自然体で、ぼくの中のビートルズ像とぴったりあっていました。

ジョンがアンプを調整しながらチューニングして、曲の紹介もないまま、いきなり遅めのテンポで「ロックン・ロール・ミュージック」を歌いはじめました。リンゴのドラミングがとてもゆっくりに感じられる……。

映画ではなくて、夢に見たビートルズが目の前にいました。ステージの左側でポール・マッカートニーが頭を左右にふりながらベースを弾いている。ジョージ・ハリスンが、後方のリンゴ・スターを振り返って笑っている。リンゴはジョージと目があうと、ちょっと笑ったが、すごく憂鬱そうだ。ジョン・レノンが、マイクの前に貼りついて「ロックン・ロール・ミュージック」を歌っている。





夢の光景が現実になっていました。

もう1度、日本公演で演奏された曲目をあげてみます。

  1. ロックン・ロール・ミュージック
  2. シーズ・ア・ウーマン
  3. 恋をするなら
  4. デイ・トリッパー
  5. ベイビーズ・イン・ブラック
  6. アイ・フィール・ファイン
  7. エスタディ
  8. アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン
  9. ノーホエア・マン
  10. ペイパー・バック・ライター
  11. アイム・ダウン

リンゴが「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」をドラムを叩きながら歌う瞬間は、ぼくにとって、ビートルズ公演のハイライトの1つだった。歌うドラマー、リンゴのかっこよさにぼくはしびれていた。

そのリンゴが、シンバルを連打する右手のスティックを落としたとき、ぼくの方があわてた。リンゴ危うし!

しかし、、、

リンゴは歌を中断することなく、バスドラムの上にある予備のスティックを掴んで、なにごともなかったように平然と演奏を継続しました。さすがリンゴ!

ステージの前にいるジョンとポールは気づいていないようだ。

神経質にリズムを確認するのか、リンゴがただ好きなのか(笑)、ジョージは、演奏中たえずリンゴを振り返る。そのジョージだけが、気づいて笑っている。リンゴは、ジョージを無視して歌っている。

あとは、みなさんが日本公演のビデオなどでご覧になったビートルズ公演が行なわれました。

ビートルズの演奏は、よく聴こえましたとも(笑)

当時から、歓声と悲鳴の連続でビートルズの演奏が全然聴こえなかった、というコンサートを見た人の感想が根強くありました。ぼくは、興奮状態にありましたが、ビートルズの演奏するサウンドや歌う声は、しっかりと聴こえていました。

「恋をするなら」を歌うジョージの音程が定まらないのでドキドキしましたが、「これが生演奏なんだ、ビートルズも人間のバンドなんだ」……そんなことを実感しておりました。

歓声のすごさでいえば、映画「ヤア!ヤア!ヤア!」を見ていたときのほうが、悲鳴と歓声でにぎやかでした。そのことにも恩蔵茂氏はふれておりますので、次回はそのへんをご紹介して最後にしたいとおもいます。

今回も長文を最後までお読みくださった方はありがとうございました。

*1:ジュリマムさん(=ringoさん)が実際に行ったのは、ピーター&ゴードンではなく、ハーマンズ・ハーミッツのコンサートでした。投稿時、ご本人から訂正がありました。

*2:「3日間で5回」=7月1日と7月2日は、昼と夜の2回公演が行われました。

*3:『アンソロジー』=恩蔵氏は本を意味していますけど、ビデオ版のポールの発言にも同様のものがあったとおもいます。

*4:内田裕也、尾藤イサオ、望月浩」=望月浩については、記憶が定かでありません。