かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

文章で表現することのむずかしさ(川島雄三の言葉から)

川島雄三、サヨナラだけが人生だ

「君の考えていることを100としましょう。そして君が口でいうことをその10分の1としましょう。つまり10パーセントですね。そして君が書く字は、その言葉のさらに10分の1です。つまり頭で考えているものは文字になったら1パーセントです。それをあなたは原稿用紙に埋めていくんです。これが普通の人です」


(中略)


「君があの偉大な詩人のタゴールとか、あるいはラディゲとかジイドとか、そういう大天才であったならば、それを君は苦労なしにつかむことができるでしょう。しかし、私の見たかぎり、君は凡人です」


藤本義一著『川島雄三、サヨナラだけが人生だ』からの引用です。これは、藤本義一川島雄三にはじめてあったときにいわれた言葉だそうです。失礼といえば失礼な言い分ですが、藤本義一は、むしろ忘れがたい言葉として、本のなかで引用しております。


藤本義一の解釈はこうです。

監督の言われんとするところは、天才は天分に従っていけばいいが、凡人にはもともと天分なんてものがないんだから、行きつ戻りつやっていくことの繰り返しで、1パーセントをせめて1.1パーセント、1.2パーセントとしていけばいいよってことなんです。天分がなくても天職は自分で選べばいいって言ったのでしょう。


この本を読むと、川島雄三の奇人変人ぶりに悩みながら、彼を受けとめ、その才能に敬意を払うだけの、藤本義一の聡明さと、広い度量が見えてきます。本を読む限り藤本義一は全然凡人ではありませんが、わたし自身の心得として<川島雄三の言葉>を書きとめておきます。