かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

山田洋次監督『下町の太陽』(1963年)


下町の太陽 [DVD]


1963年のころは、ぼくは中学生でした。吉永小百合の「寒い朝」と倍賞千恵子の「下町の太陽」がヒットし、まだまだ日本ではビートルズ登場の前夜である……と、そんな時代ですね(笑)。


吉永小百合は山の手のアイドル、倍賞千恵子は下町のアイドル、と対比され若手女優の人気を二分していました。


「下町の太陽」は倍賞千恵子の大ヒット曲で、ラジオをつけると、あちこちで若い倍賞千恵子ののびのびした歌声が聴こえました。


この映画は、そういうヒット曲が先にあって作られたものなのに、歌謡映画らしい安っぽさは全然ありません。


下町に育った明るい女性(倍賞千恵子)が、恋人(早川保)の「出世して、山の手に暮らしたい」、という意欲に、最初は共感していながら、段々懐疑的になり、「わたしはこの町に残って、町の人たちと生きていきたい」と、別れるまでの心の変化を描いていきます。


隅田川だか荒川の、川と土手の風景、北千住あたりの煙突工場、曳船の駅、懐かしい昭和の下町の映像を見ているだけでも、たのしい映画でした。


山の手と下町の対比があまりに図式的といえば、そうなのですが、それをあまり表層的に感じないのは、下町の情景を慈しむように描く、山田洋次の心情が通りいっぺんだけのものではない、からだとおもいます。


寅さん映画へ引き継がれていく、山田洋次の下町への共感は、この映画からはじまっていたのだ、と改めておもいました。