ある事件をきっかけに、田舎町で巻き起こる騒動を描いたブラックコメディ。『リンダ リンダ リンダ』の山下敦弘監督が、閉鎖的な町で生きる人々の間に広がる不穏な空気をユーモアたっぷりに映し出す。徐々に壊れていく主人公を熱演するのは『ゆれる』の新井浩文。その父親役に三浦友和、父の愛人役に烏丸せつ子がふんするなど、個性派俳優が脇を固める。登場人物たちの奇妙な持ち味が生きる、一筋縄ではいかない作品に仕上がっている。
(「Yahoo!映画」より)
ネットのレンタルDVDで見ました。
新宿で単館ロードショーをやっているのを見逃してから、ずっと見たいと思いつつ、見る機会に恵まれませんでした。というか、よくいく名画座にかからなかったんですよね(まもなく池袋新文芸座のオールナイトで上映されるようです)。
メジャー映画とマイナー映画の狭間、微妙な位置にいるのかな、山下敦弘監督は。なかなか名画座でもやってくれません。
ぼくは、『リアリズムの宿』(つげ義春原作)、『ばかのハコ船』と見て、この監督の独特の雰囲気に魅了されてしまいました。
山下敦弘監督、この1作……というなら、『ばかのハコ船』ですね。ぼくは大好きです。この作品を見て、何も感じなければ、その人は山下敦弘監督とは生涯無縁なのかもしれません。そういう観客のふるいわけをするような作品でもあります。まずは、多くのひとに見てもらいたいのですが、ただレンタル店へいっても『ばかのハコ船』を見かけないのが残念です。
山下敦弘監督の特徴をあげると、美男美女が原則的に登場しません(笑)。ドラマの盛り上がりがありません。会話はしばしば途絶えがちで、流暢な流れがありません。
要約すると、とっても非映画的な作品群だとおもいます。つまり映画を見ていて<胸が高鳴る感動>というのが山下敦弘監督作品にはないんです(笑)。
登場するのはダサいひとばかり(笑)。
不器用で相手に思いを表現できないひと、なぜか悪い運ばかり選んでしまうひと、などが登場しますが、颯爽としたエリート・サラリーマンはまず出てきませんね(笑)。
そういう彼らは、世の中に適合できなくて苦しみますけど、大声を放つわけではありません。それなりに頑張っています。そこにユーモアが生まれます。しかし、それは甘いユーモアではなくて<苦笑>のようなものに似ています。
前置きばかり長くなりました(笑)。
『松ケ根乱射事件』も、山下敦弘作品の特徴がよくでています。顔も性格もちっとも似ていない、双子の兄弟が主人公。
ある雪の日に、ひとりの女性をあて逃げしたために、脅迫され、追いつめられていく兄の光(山中崇)と、その兄をかばう、おまわりさんの光太郎(新井浩文)が、少しずつ心のバランスを失っていく様子を描いていきます。
脅迫するのは、木村祐一と川越美和のカップル。ふたりの胡散臭さがなかなか見ものです。
もうひとり脇役でいいなあ、とおもうのが三浦友和。光と光太郎兄弟の父親ですが、近所の頭の弱い女の子をはらませ、美容院に愛人をつくり、子供にもっともらしい教訓をいいますが、妻にも子供にも相手にされないダメおやじです(笑)。この父親を演じる三浦友和がいいです。最近おもうのですが、三浦友和は、どの作品に出ていても、さりげなくていいんですね。
退屈と紙一重(笑)……のふしぎな映画をつくる山下敦弘監督が、これからどのような作品をつくっていくのかとても楽しみです。
【了】