かぶとむし日記

映画、音楽、本の感想を中心に日記を更新しています。

山下敦弘監督『苦役列車』(公開中)



原作西村賢太(にしむら・けんた)、監督山下敦弘(やました・のぶひろ)、という組み合わせで楽しみにしていた作品でしたが、近くの映画館で上映してないので、公開から2日後の7月16日に、有楽町で見てきました。


西村賢太の小説は、徹底的にダメな「自分」を突き放して描く、伝統的な破滅型私小説ですけど*1、優等生作家の多い、いまの時代には読後感が痛快でした。


北町貫多のだめっぷりを見ていると、読者は、自分のことを「こんな自分でも、北町貫多に比べればちっとはマシではないか」と、慰められるような気がするんです(笑)。



西村賢太がダメ男を次から次へ書き続ける作家であるとしたら、山下敦弘監督も、、、


と、ダメ男を描き続けてきた監督。


上記の作品で、あえてひとつを選ぶとしたら、『ばかのハコ船』をぜひ見てほしい、とおもいます。映画に登場する主人公とその恋人の、くすぐったいような可笑しさ・・・じんわりした味わいが最高です。


そのダメぶりは『苦役列車』の貫多に比べると、もう少し内向的な印象はしますが、いまの社会には、どちらも不適合そのもの、で共通します。



苦役列車』は、山下作品の「ダメ男」系列の最新作になるとおもいますが、この原作の主人公は「じんわりとしたダメ男」というより「強烈なダメ男」でした。映画から受ける印象も攻撃的です。


原作にはない暴力シーンもあって、そのためか、個人的には、いまなお『ばかのハコ船』を、一番好きな山下敦弘作品にあげたくなります。



【追記】余談ですけど、鶯谷にある、横にカウンターの長い24時間営業の居酒屋「信濃路」が、西村賢太作品にはよく出てきますが、映画にも、主人公が喧嘩で殴られるシーンに出てきました。

信濃路」は、横長カウンターのもうひとつ別側にはテーブルの席があるのですが、そっちで撮影されているようです。あるいは、じっさいには別の店で撮っているのかもしれません。


主人公が外へ出てくると、「信濃路」という看板がかかっているのが映ります。わたしが散歩のついでに何度かその居酒屋で飲んでいるので、ちょっと懐かしかったと、それだけなんですけどね(笑)

*1:しかし、手法はそうでも、この主人公はそう簡単には破滅しない「したたかさ」を感じますが。